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歴史と伝統を活かしたまちづくり【TABLE SESSION TENJIN vol.08】

2021年09月18日 11:00 by はたゆう

“まちづくりは人のつながりづくり”をコンセプトにした未来のまちづくりにつながる場「URBANG TABLE」。変革期を迎えている天神で、新しいまちに必要なモノ、都市としての機能とは?そんな“まち”の在り方を考えるトークイベント「TABLE SESSION TENJIN vol.08」が開催されました。

8回目となる今回は、博多祇園山笠で、櫛田神社の飾り山も担当されている博多人形師の中村弘峰(ひろみね)さんをゲストに迎えトークが行われました。

博多人形は400年の歴史を誇る福岡の伝統工芸の一つで、粘土を素焼きにし着色した人形を指します。代表的格に「美人もの」があり、着物姿に扇子をもった人形が家に飾っている家庭もあるかもしれません。
そんな博多人形を生み出す「中村人形」は赤坂にあり、100年以上受け継がれる伝統ある工房。初代は、曽祖父の正推(まさお)さんより始まり、弘峰さんで四代目になります。弘峰さんの伝統を重んじつつ現代的な視点で生み出す作品は、日本にとどまらず世界からも高い評価を受けています。

幼少期より何度も聞かされた初代から受け継がれてきた家訓“お粥食ってもいいもん作れ”。「貧しくても、作るものに妥協するな」と言う意味で、これが人形作りのコアになっていると言います。

高度経済成長期から平成へ時代が変わるとともに、人形が売れない時期が訪れ、伝統の業界全体で脱皮せざるを得ない波が中村人形にも押し寄せます。そこで三代目 信喬(しんきょう)さんが、人形とはなんだろうと考え生まれた言葉。
「“人形とは、の祈りをにしたもの”」。
弘峰さんは作品作りの時に、その言葉をいつも胸に留めています。人形とはなくても生きていけるが必要な人もいて、依頼主の祈り、作家の祈り、貰い手の祈りが宿る不思議なものだと語ります。

近年の作品は、“そこに存在する必然性”を大切に制作されており、触れて楽しめる、街に愛されるものを人形師の目線で作ることで、街の“ここ”にどんなものあれば、誰かの祈りを具現化できるのかを日々考えていると語ります。そんな中、制作した福岡市内のモニュメント3つを紹介してくれました。

博多マルイの入口にある「エンジェルポスト」の制作は完全にお任せでの依頼。福岡には渋谷のハチ公のような待ち合わせ場所になるモニュメントが少なく、あっても無骨で玄人好みなものが多いのだそう。そこで、分かり易くポップなものをと思い付いたのがハートの形でした。

手紙を投函する機会が減りメールが主流の現代、ポストへ投函することを最大限体感できるものにしようと「想いが届くポスト」というテーマで制作。エンジェルが投函口を覗き、ハートには矢が刺さっています。ここから手紙を送ると、届けたいという気持ちがそのまま届くようできたらとの想いで完成したのだそう。
意外にも、願書や履歴書の投函など、また一番下の投函口へは車椅子の方が投函したり、想定していなかった広がりもみせています。

住吉神社の「古代力士像」は、力士の手相の皺が『力』の文字になっているのだそう。パワースポットとしても有名で、日馬富士がタッチし優勝したり、某アイドルのあるメンバーが、総選挙前にタッチし直後1位になったり、映画のヒット祈願に俳優の方がタッチしたりと、沢山の秘話があるのだとか。

福岡市動物園の「座れるゴリラ」は、その名の通り実際に座る事ができます。子供が3人くらい座ることができ、記念撮影する人も多いのだそう。


●もしも江戸時代の人形師がひょんなことから現代にタイムスリップしてきたら?

中村人形は各々の代で作風を変えなければならない。弘峰さんは、息子さんが生まれたタイミングが自分の作風を考えるきっかけになったと語ります。

五月人形の定番「桃太郎」を再解釈し、桃太郎が英雄だった時代から、現代の英雄はアスリートだと考え形に。弘峰さん自身が人形作りで大切にしている視点、それは”もしも江戸時代の人形師がひょうんなことから現代にタイムスリップしてきたら?”。そんな角度で現代を見ると、街のあらゆるものがモチーフに見えてくると話します。


●太宰府天満宮での修行を経て

作品の一つに、太宰府天満宮の干支鈴・干支置物があります。
弘峰さんは、大学院を卒業後、太宰府天満宮で1年間修行をしていた時期がありました。太宰府天満宮は沢山の人々の祈りが集約された場所で、お正月の干支置物の対しても強い想いが詰まっていて、また神社からの祈りもある場所です。そんな中、自分が干支置物を作ることで出来ることは何だろうと考えた時、十二支全てをコレクションしたくなるものを作ろうと、この置物ができたのだそう。1つでも欠けると、我慢ならないくらい?可愛らしいフォルムが特徴です。


●これまで形にするのが難しかった作品について
「博多祇園山笠 土居流 舁き山」は、気合いを入れた作品だと話します。博多の歴史に接合する仕事で、父の山笠(舁き山)のデビュー作がかなりインパクトがあったこともあり、山笠の関係者から期待されプレッシャーを強く感じたのだそう。




●まちづくり、まちとの関わり
まちづくりではアートは後回しにされがちで、経済とアートは別だと思っている人は多いが、実はそうではない。福岡にはアーティストが少なくニーズも多いので、アーティストの移住にはおすすめなのだそう。
福岡は経済特区に選ばれビジネスやデジタルが伸びているが、歴史や文化を掘っている人は少ない。色んな分野を伸ばすことで、バランスのいいまちに近づくのではないかと言います。

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「なくても生きていけるが必要な人もいる」という言葉が印象的で、きっとそれは人形だけではないのではと思いました。博多人形をはじめとした伝統や文化がまちに生き続けることは、福岡の魅力や価値を高めている事は間違いなく、これからも絶えず広がり続けてほしいと感じました。
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●質問
Q&A『アートとデザインを行き来きする時に、違いをどう意識していますか?』
▼中村弘峰氏
人形師は、アートとデザインの真ん中を表現する人。アーティストは問題提起をする、デザイナーは問題を解決する。人の言葉にならない気持ちを代弁し解決するように形にする。アーティストのようで、問題を解決するデザインに還ってくる。


イベントの詳細は下記youtubeからチェック!
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▼公式サイト
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取材・文:はたゆう
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