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身近なバスとまちづくりの関係【TABLE SESSION TENJIN vol.16】

2022年05月18日 18:00 by 深江久美子

“まちづくりは人のつながりづくり”をコンセプトにした未来のまちづくりにつながる場「URBANG TABLE」。変革期を迎えている天神で、新しいまちに必要なモノ、都市としての機能とは?そんな“まち”の在り方を考えるトークイベント「TABLE SESSION TENJIN vol.16」が開催されました。


今回のゲストは福岡の交通インフラを担っている西日本鉄道株式会社の宮崎泰さん。現在は自動車事業本部に所属していますが、観光・ホテル・都市開発など、西鉄グループの内外で多岐に渡り様々な事業に携わってきました。加えて業務内外で様々な取り組みに参加し、その中で「まちづくり」に対する考え方が大きく変わってきたといいます。西鉄バスの歴史や、宮崎さんのこれまでのキャリアを振り返りながら、ご自身が手掛けてきた事業とまちづくりに対する考え方を語ってもらいました。
※宮崎さんの「崎」の字は、正しくは《山へんに立・可》です。

 

●西鉄バスの歴史
まち中をくまなく走り、福岡県民の移動手段として必要不可欠な西鉄バス。1日で74万人(※)の利用者がおり、その走行距離は地球9週半だといいます。戦後の高度経済成長期には路面電車を走らせるとともに、新しく開発されるニュータウン(団地)に路線を拡大。モータリゼーションの発展などの影響で輸送人員が減少する中で事業再編を行ないつつ、一方で、都市高速の開通に合わせ都市高速系統のバス路線を新設するなど、その時々の環境変化に対応。1999年、都市圏中心部で大々的に100円バスを導入したのは日本初の取り組みでした(昨年7月150円に値上げ)。2016年からは、都心循環BRT「連節バス」の運行をスタートしています。
※2020年3月31日時点

 
●九州中を繋げた「SUNQパス」
全九州乗り放題のバスの乗車券「SUNQパス」も宮崎さんが関わってきたプロジェクトの1つ。「バス事業は県域で路線が切れている。九州のバスにみんなが乗れたらいいな。」という、九州運輸局の当時の部長の発言がきっかけとなり、2005年に北部九州3日間券を発売スタートしました。準備段階では、上司と一緒に各県のバス事業者にお願い行脚。各県毎に異なる事業状況などから当初必ずしも一致していなかった各社の意見を取りまとめながら結果的に大同団結し、全九州で取り組むようになったそう。今現在も自身が最も大切にしている利他の精神を学べ、印象深い仕事だったと話してくれました。
>> SUNQパス:http://www.sunqpass.jp/


●個人の想いに動かされたグリーンツーリズムでの気付き
官民連携組織である九州観光推進機構に派遣されていた頃、熊本県小国町をメインフィールドに開講している「九州ツーリズム大学」に半年通い、地方の第一次産業・第二次産業と観光を結びつける事業で実践者と関わります。農林業者だけでなく地域づくりに従事している方、観光地の再生や振興策などに携わっている方、自治体職員などが参加。個人やNPOの方も多く、小さなリソースでも熱い想いを持ってご自身のプロジェクトに取り組んでいらっしゃる皆さんに感銘を受け、企業活動がまちづくりにどんな形で関われるのか真剣に考えたと話してくれました。


●福岡市の新アトラクション?オープントップバス
福岡市を評してよく耳にする「美味しい料理はあるが、観光地がない」という自虐的な声。福岡オープントップバスの立ち上げ時のターゲットは、そんな風に感じている福岡の生活者の皆さんだったといいます。「移動手段ではなく、アトラクション」というコンセプトを掲げ、より生活者にまちを好きになって欲しいということを目標に2012年3月24日に運行をスタート。普段生活している街並みも、3.2mの高さからだと景色が変わります。沿道の方と乗客が手を振り合い「まちに笑顔があふれる」を目指し運行を続け、この春に10周年を迎えました。3種類のコースに加え、昨年からは福岡空港内を走るスペシャルツアーも登場し好評を博しています。
>> 福岡オープントップバス:https://fukuokaopentopbus.jp/


●地元とビジネスマンを結び付けたワールドカフェ
その後、ソラリア西鉄ホテル鹿児島に非常勤で着任。ビジネスホテルの宿泊者と地元の方を繋げると何か生まれるのでは?実はそれこそ、本当の意味での『ビジネス』ホテルかも……と、まちづくりファシリテーターである津屋崎ブランチの山口さんと企画。ワールドカフェを4回開催し、地元新聞でも取り上げられるほど好評を得ます。内外の視点で鹿児島の良い点や足りないモノについての対話が深まると、地元の人の新しい気付きになったそう。ネットワークも広がり、地域に溶け込むことができ商店街や市内の他ホテルとの連携にも繋がりました。


●人材交流スペース「HOOD天神」
その後自動車事業本部に戻った際に社内プロジェクト活動として取り組んだのが、15回目のTABLE SESSION TENJINのゲストだった須賀さんたちとの「HOOD天神(フッドテンジン)」の立ち上げ。今は組織改正でなくなりましたが、西鉄グループ内横断組織「天神委員会」のメンバーだった時に、天神の魅力向上につながる多様な人材の集積、ネットワークを図る場所を作ろうと開設させます。普段は交わらない人たちが集まり、有機的に繋がったと感じているそう。現在は須賀さんが代表を務める(株)SALTが単独で運営しています。
>> HOOD天神:https://hood-tenjin.com/


●久留米で学んだ新しい可能性
エマックス・クルメの館長に就任。まちの活性化や建物のリノベーション、伝統工芸品の情報発信など様々なプロジェクトに取り組んでいる個人が繋がって久留米のまちのために活動している『チエツク(知恵つく)プロジェクト』に参画しました。「企業は事業が上手く行かなかったらその地域から撤退することができるけど、まちに住んでいる人たちはそのまちに住み続ける」という当たり前の事実とメンバーの想いに触れ、さらなる覚悟を持ってまちづくりに貢献しようと考えたそう。駅の改札口と商業施設の入り口の間の公共空間で久留米のまちについて考えるイベントを開いたり、時にはディスカッションメンバーの一員として現役市長と久留米市の未来について語り合ったりもしたそうです。
異動で久留米を離れても、様々なかたちで久留米のまちの皆さんとは繋がっていらっしゃるそうで、商業施設や交通事業者がまちに対して出来ることの様々な可能性に気づかせてくれた、久留米のまちのスケールだからできている経験は、今でも現在進行形でとても大切なものだと話してくれました。


●九州バスあいのりマルシェ
関東地方を中心に広く展開されている「バスあいのりマルシェ」九州版を、2020年9月にスタート。九州各地の魅力ある特産品を高速バスで早く・安く運ぶだけでなく、移動できないコロナ禍に、各地のモノを福岡に繋ぎ、福岡で魅力や価値、そこに流れる物語をしっかり発信。都市圏の人が、現地に行ってみたいねと、モノとは逆の人の流れをつくるところまでを目指し事業設計されました。


●垣根を超えるプロジェクト「Fukuoka Smart City Community」
LINE Fukuokaが発起人となり、福岡の異業種9社で発足した「Fukuoka Smart City Community」にも、社内各部署の有志を誘って4名で参画。福岡市が災害や感染症などの課題に直面した際、行政・市民・企業が一体となりスピーディーに課題を解決できるまちを目指そうという取り組みです。このプロジェクトで目指す「Smart City」は、単なるデジタル化ではなく、「より良い暮らしができるようなまち」。福岡のインフラを担う企業の一員として、様々な垣根を越えていこうとしているこのプロジェクトの今後がとても楽しみだと話してくれました。
>> Fukuoka Smart City Community:https://fukuoka.smartcity-community.jp/


●アマエビちゃんプロジェクト
バスや電車内で見かける感染予防のキャラクター、アマビエちゃん。withコロナの新しい生活様式を漫画で分かりやすく周知しています。コロナ禍で、対面で会うことがないまま、東京・大阪在住の「アマビエちゃん製作委員会」の皆さんと約2年間プロジェクトを進めてきました。東京2020 オリンピック・パラリンピックの公式マスコットの作者である谷口さんがキャラクターを担当。今後も、製作委員会とタッグを組んで、様々な取り組みを進めて行く予定だそうです。
>> アマエビちゃん:https://amabiechan.jp/


●ちょいよか
「バスや鉄道など公共交通機関をご利用いただくのは、実はCo2削減に貢献協力しているんです」と話す宮崎さん。地球環境に優しい移動の推進と、社会課題の解決となるシェアリングサービスのサブスクリプション型サービス「ちょいよか」を2021年10月にスタート。傘のシェアリングの「アイカサ」やシェアサイクル「チャリチャリ」などのサービスを月額500円でお得にご利用できます。
>> ちょいよか:https://choiyoka.com/


最後に宮崎さんは「生活者のみなさんの日々が豊かになることで、まちが元気になることが大事だ」と語ってくれました。西鉄は先輩方が作ってきた事業ポートフォリオが多彩だが、西鉄グループは『まちに、ゆめを描こう。』という企業メッセージを発信しており、「実は、どんな事業でも、どの部署に異動しても、結果的に自分たちが関わるまちが元気になるような仕事をすることになる」とも。
コロナ禍、コロナ後で考えていることは?という質問には、高速バスの新しい路線を作りたいと回答。コロナ禍でご苦労されている各地にお客様をお連れし楽しんでいただき、地域の皆さんのためになり、もちろん僕ら事業者もちゃんと採算がとれる「三方よし」の「まちづくり事業」にチャレンジしたいと話してくれました。
 

キャリアは多岐に渡っても、常に自分たちが関わるまちの価値を高めるために取り組んできた宮崎さん。まちの大きさに関係なく、多様な地域の人たちとのコミュニケーションから培われたものが、新たなまちの方向性を見出だしていきました。まちは天神ビッグバンで変革期を迎えています。今後も宮崎さんがどんなイノベーションを創出するか楽しみです。


イベントの詳細は下記youtubeからチェック!
▼Youtube
https://www.youtube.com/watch?v=JIJ684mV-ng
▼Facebookページ
https://www.facebook.com/urbangtable
▼Twitter
https://twitter.com/urbangtable
▼公式サイト
https://tenjinsite.jp/urbangtable

 

取材・文:深江久美子
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URBAN TABLE

住所 福岡市中央区天神4-3-30 天神ビル新館1階

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