
天神ワーカーに密着取材
農業の常識を塗り替え 「育てること」が当たり前になる社会を
2026年03月27日 11:00 by はたゆう
OYASAI株式会社 代表取締役 國村隼太さん
【福岡市トライアル優良商品】OYASAI FARM
天神の真ん中、大名小学校跡地に作られたスタートアップ支援施設『Fukuoka Growth Next』 の一室で今、新しい”農業”が芽吹いています。手がけるのは、OYASAI株式会社 代表取締役 國村隼太さん。AI制御された屋内型水耕栽培ユニット「OYASAI FARM」を活用し、都市の未活用空間にスマート農園を展開しています。國村さんが挑む水耕栽培事業は、これまでの「農業は土の上で行うもの」という常識を覆し、”都市の中で野菜を育てる”という新しい選択肢を生み出しました。
食料自給率の低下や高齢化による農業の担い手不足、輸入依存など、農業をとりまく様々な課題を「育てる力」で解決へ導く。2026年2月に開催された「福岡県未来ITスタートアップアワード」で、福岡県知事賞、にしてつ賞、を同時受賞した、福岡スタートアップの”ホープ”にお話を伺いました。
“健康””食”を考えた先にたどり着いた「野菜」の大切さ

私は、実家が農家だったわけでも、大学で農業を学んだわけでもないんです。今は丈夫なのですが、小さい頃はあまり体が強くなくて、学校も休みがちでした。当時のことを母に聞いてみると、食事にはかなり気を使ってくれていたらしくて。そこから、「食べるものってすごく大事なんだな」と意識するようになりました。
ちょうどその頃、学校で農薬の話を聞く機会があって、「農薬って何だろう?」と気になったんです。実際にホームセンターに行って、ずらっと並んでいる薬剤を見たときに、「これを使ったものを自分たちは食べているんだ」と実感して、食への意識が大きく変わりました。
そこから自分なりに健康や食べることについて調べていくと、最後は必ず“野菜”に行き着くんですね。いろいろな情報を見ても、やっぱり野菜が人の健康を支えているんだなと、改めて感じるようになりました。
野菜って“好きで食べる”というよりも、“健康のために仕方なく食べるもの”みたいな感覚がありますよね。そんなネガティブなイメージも含め、農業全体を俯瞰して眺めると、農薬に限らず、鮮度とか、農家さんが儲かっていない現状とか、課題がたくさん見えてきました。その上、農業は昔からずっと同じやり方が続いていて、”大変”という話はよく耳にするけれど、ポジティブなニュースはあまり聞こえてこない。そして、たくさんある野菜の”課題”に対して「こうやって解決していこう」と本気で取り組んでいる人もあまりいないと感じました。

「野菜=農業」は、人が健康に生きていくためになくてはならないものなのに、とっても課題が多い。「じゃあ僕達のやり方で課題解決に挑戦してみよう!」と思ったことが、起業のきっかけです。私自身、昔から「面白そうだな」「やってみたいな」と思ったら、わりとスッと動けるタイプで、起業も自分の中ではすごく自然な流れでした。会社を起こすことは目的ではなく、あくまで“手段の一つ”なので、選択肢の一つとして「じゃあやるか」くらいの感覚でスタートしました。
OYASAIを立ち上げたのは2025年の4月なので、ちょうど今で11ヶ月ほど。まだ1年も経っていないですが、ひとつひとつ積み重ねながらという感覚ですね。
野菜を育て、売りながら見えてきたニーズ

OYASAIを立ち上げる前は、4年程、水耕栽培の“農家”として、自分達で野菜を作って販売をしていました。そうすると、「自分たちも畑をやりたい!」という声を多方面からいただくようになりました。飲食店、ホテル、障がい者の就労支援施設など、想像以上にニーズがあることに気が付きました。
農業は、企業が参入しようとすると、農業法人をつくらなければいけなかったり、知識や経験、初期投資など、ハードルがかなり高いんです。1次産業は市場が大きく、ビジネスとして強いですし、何より「野菜」に対するイメージの良さもあって、多くの企業が関心を持っている一方で「やりたいけど簡単に参入できない」分野だということも見えてきました。
そうした声を聞く中で、「自分たちで野菜を作って売る」だけではなく、挑戦したい人たちに“できる仕組み”を提供するほうが、もっと広く野菜の美味しさや価値、加えて私達の理念を届けられるんじゃないかと考えるようになりました。そこから今の、水耕栽培システムを提供する事業へとシフトしていった、という流れです。

私はこれまでに3000種類以上の野菜を育ててきたと思います。実際はそれ以上かもしれません。水耕栽培に関して言えば、基本的にはほとんどの作物が育てられます。お米もできますし、根菜類も専用の環境をつくれば栽培自体は可能です。ただ、ビジネスとして考えると、現状は葉物野菜が成長サイクルが早く、採算が取りやすいのが実情です。
強みは”収益化”をしてきた経験

2025年、福岡市トライアル優良商品に認定された「OYASAI FARM」は、AIで制御された屋内型水耕栽培ユニット。従来の方法から初期費用、運営コストを大幅に削減し、導入のハードルを大きく下げたことも、様々な企業から多くの関心を寄せられる理由の一つです。

このラックを見て「植物工場」と言われるのですが、その言い方はあまり好きじゃなくて。確かに設備はありますし、仕組みとしては工場っぽく見えますが、実際にやっていることは人の手で育てる“農業”なんです。毎日、野菜と向き合いながら育てているので、これは立派な“畑”。場所が屋内に変わっただけで、本質は変わらないと思っています。
水耕栽培は、10〜15年くらい前に、国が「次世代の農業だ」と補助金を出して、ブームになった時期がありました。ですが、当時はプレイヤーがほとんどいなかったので、実際には“野菜を育てるノウハウ”がないまま、設備だけが先行してしまったんですね。大きな工場に大掛かりな棚をつくって、高額な設備が導入されて…。でも、肝心の栽培環境の設計が甘いので、うまく育たないし、クオリティも上がらない。その後も、何度か波はありましたが、うまくいかずに終わるケースが多かったと思います。

その点、私達の強みは、実際に農家としてやってきて、ちゃんと”収益化まで経験”をしていることだと思います。小規模でも自走し循環するモデルを自分達でつくってきたし、栽培だけじゃなく、どんな品種を作り、どこに届け、どう売るか、を実践してきました。現在、五つ星ホテルをはじめとした様々なレストランとも一緒にやっていますが、全てを経験してきたからこそ、野菜に関してはシェフとも対等に話ができますし、「どんな野菜を作るか」の提案から、メニュー開発まで関わることができています。
さらに、私達が得意なことがもう一つあって、それは“仕組みづくり”。飲食店、ホテル、障がい者の就労支援施設、オフィスなど、それぞれの用途や目的に合わせてビジネスモデルを設計し、提案することができます。納品して終わりではなく、「どうやって収益を生むか」まで含めて経験を伝え、伴走できることが、大きな差別化になっていると思います。
実際にこのユニットも、リリースしてまだ5ヶ月くらいですが、ありがたいことに既にたくさんのお問い合わせをいただき、導入がすすんでいます。
導入先は様々ですが、全体の1〜2割は、農家です。猛暑や異常気象の影響で、従来のやり方では安定生産が難しくなってきていたり、特に夏場は、葉物野菜の栽培が難しくなる。「夏だけでもこういう方法で作りたい」という声は多いですね。
水耕栽培の”名人”に

農業にはいわゆる”名人”がいますが、水耕栽培の世界ではそれが”私”になるのかなと思っています。土でも水でも一番大事なのは「どう育てるか」。農家が「土づくりが大事」と言うのと同じで、水の中にどんな栄養をどのバランスで入れるかにプラスして、光や温度、湿度、CO2濃度など、環境や条件の組み合わせがすごく重要です。
その上で、品種ごとの特性も大きく、芽が出る時期、成長のスピード、収穫のタイミングも全部違うので、管理の仕方も変えていかないといけない。いわば“栽培のレシピ”みたいなものを、一つひとつ組み立てていく感覚ですね。
よく「土と水耕で何が違うのか?」と聞かれますが、結論から言うと、栄養に関しては同じです。土に含まれているミネラルや栄養素を、水耕栽培では水の中に溶かして与えているので、野菜側からすると吸収しているものはほぼ一緒なんです。違いが出るのは”コントロール性”かもしれません。水耕栽培は、味や風味の調整がすごくしやすい栽培方法です。例えば、甘みを強くしたり、香りを立たせたり、辛味を調整したり。トマトであればフルーツトマトレベルまで甘さを引き上げることもできます。あとは、土特有の“土臭さ”がないことと、えぐみや苦味が出にくいのも特徴です。
一番わかりやすい違いは「場所」ですね。土の農業は、その土地の環境に強く依存しますし、畑を動かすことはできない一方で、耕栽培は環境をコントロールできるので、ある程度どこでも安定した品質で作物を作ることができる。“場所に縛られない”というのは、大きな違いだと思います。

これまでの中で大変だったことをあげるなら、“前例がないこと”が一番大きなハードルでした。特に金融機関では、過去の事例がないとすぐには信じてもらえないんですよね。加えて、年齢の問題もあって、「まだ若いから経験が足りない」と言われることも多かったです。
今では、レストランのシェフの方と話しても、野菜に関しては頼っていただいていますし、こちらから新しい提案もできる。そういう意味で、“栽培から食べるところまで”一貫して話せることは、私達の価値の一つだと思っています。
目指すのは、
気づいたら農業に関わっている社会

色々大変なこともありますが、やっぱり野菜が好きなんですよね。最初は健康のために仕方なく食べていたものが、背景を知るうちに面白くなっていって。農業が変わることで、多くの人の生活が変わる。そのインパクトの大きさはとても魅力的だし、ワクワクしながら続けられているのだと思います。
私が目指しているのは、「気付いたらみんなが農業に関わっている状態」をつくることなんです。何か“農業をやるぞ”って頑張って意識しなくても、ホテルの中だったり、オフィスだったり、家の中だったりに小さな栽培キットがあって、朝ちょっと世話をして、帰りに収穫する。それが当たり前になるような社会になればいいなと思っています。
観葉植物みたいな感覚で、野菜がどこにでも普通に存在していれば、今ある農業の課題ってかなり解決できるんじゃないかと思っています。安全性、環境、人手不足など、問題は様々ですが「自分で育てる」ことで、農業に感心を持つきっかけにもなります。
そして何より、私自身の原点もそうですが、もっと本質的なところ、「自分で作った野菜が一番うまい!」っていう体験を広げたいんです。すごくシンプルですが、ものすごく価値があることだと思っています。
今は、何でもすぐ手に入るし、レンジで温めれば食べられる。でも、そこに”自分で育てる”経験と”美味しい”という感覚が加わると、自然と食べ物に対して意識が向くようになって、体に入るもののことを考えるようになると思っています。そうすると、、生活の質も変わるし、健康も変わるし、価値観も変わっていく。食べ物の素材そのものの良さを”味わう”暮らしに少しずつなっていけばいいなと思っています。
すごく大きなことをやろうとしているわけではなくて、「野菜って面白いよね」「自分で作ると美味しいよね」っていう楽しさの先に、社会が変わっていけば最高ですね。

OYASAI についてのお問い合わせは
OYASAI株式会社 まで
https://oyasai-japan.jp/
取材・文:はたゆう
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