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連続アジフライ小説~アジフライに恋して~第3話「旅の終わりとアジフライと」

2018年08月27日 12:00

連続アジフライ小説~アジフライに恋して~第1話「人気者の彼女とアジフライ」はこちらから≫

Photo by Axel Holen on Unsplash

女「……。」

助手席に座った彼女は口を利いてくれなかった。

松浦の二日目の予定は彼女が組んでくれていた。まず御厨港からフェリーで青島に渡り宝の浜の綺麗な海と砂浜を眺め、そして青島から鷹島にまた移動、鷹島の特産品の海鮮丼「魚島来めし」を食べ今福港へ帰ってくる。電車で御厨港まで戻る。船の時間も調べて、この島ではこのくらいの時間いて、お昼はこの辺で食べて、この時間にはまた船に乗って移動して、少しのんびりして、そして島を満喫して帰ってくる、そんな素敵なタイムスケジュールを組んでくれていた。僕らは松浦を100パーセント楽しむ予定だったし、彼女はそういうのが得意だった。松浦の島を巡る冒険になるはずだった。けれど僕はやってしまった。自分の財布がないのに気付いたのは青島に渡った後だった」

男「あれ、財布がない」
女「え、うそ。どっかに忘れてきた?」
男「どこだろう?」
女「泊まってたところじゃなくて?」
男「かなあ?」
女「引き返す?」
男「電話してみる」
女「…どう?」
男「ダメだ。ないって?」
女「どっかに置いてきちゃったのかなあ」
男「どっかに落としたとか」
女「どうする?探す?」
男「…いいよ。せっかく旅行にきたんだし、まあ出てくるよ。お金だけ、君に借りなきゃならないけど、ごめん」
女「それはいいけど。カードとかもでしょ?」
男「ああ、そうだ」
女「探そうよ」
男「…う、うん」

僕らは引き返し、いままで行った場所を辿ってみたり、交番に行ってみたり、つまりは予定していた100パーセントの行程を旅することができなくなった。島を巡る冒険は、失くした財布を探す冒険になった。旅先で財布を失くすことほど愚かなことはない。こんなつまらないことは他にはないだろう。しかもさらに愚かなことに、その財布は彼女からの誕生日プレゼントだった。付き合って初めて彼女にもらったプレゼントの財布だった。

男「ごめん」
女「…」
男「俺、最悪だ」
女「…しょうがないよ」

それでも彼女はやさしかった。予定を狂わせたのに、プレゼントを失くしたのに、一泊二日の楽しい松浦の旅を台無しにしたのに。
結局いろいろ探して回ったけれど、財布は出てこないまま、そろそろ博多に帰らなければならない時間になった。

男「今日一日、台無しにしちゃって、ごめん」
女「私だって、失くしちゃうこととかあるし、スマホとかすぐ失くすし(笑)」
男「…ごめん」
女「アジフライ食べて帰ろうよ。どっかおいしいところで。私の奢りでね(笑)」
男「ふふふ、ありがとう」

と、車に乗り込んだとき、後部座席に僕の財布が落ちているのを見つけた。

男「え、うそ」
女「なに?」
男「財布…あった」
女「は?」
男「後部座席に…落ちてた」
女「…は?…え、なんで見なかったの?え、なんですぐ確認しなかったの?そんなとこ」

彼女の声のトーンが変わった。というかやばい顔になった。

男「い、いや見たと思うんだけど、気付かなかったというか…」
女「は?まじで最悪なんだけど。よかったね、財布見つかって」

言葉ではそう言っているが、彼女の顔は決してよかったねという顔ではなかった。そりゃ怒るだろう。すぐそこの車の中に落ちていたのだから。

女「もういい。帰ろう」
男「え、アジフライは?」
女「もうなんかどうでもよくなった。お腹すいてないないし、車運転しなきゃだし、お酒も飲めないんだから、もういいよ、帰ろ」

それから彼女は口を利いてくれなくなった。帰りの車の中で助手席に座った彼女は、ずっとムッとしていた。触ればヤケドするくらい熱くなっていた。

男「…ごめん。…怒ってる?」
女「…何に腹が立ってるのかも分からなくなってる」
男「ごめん」

そうして、一泊二日の僕らの松浦の旅が終わった。


つづく

連続アジフライ小説~アジフライに恋して~最終話「アジフライはハートの形」はこちらから≫

ライター:石田剛太(ヨーロッパ企画)
俳優/ラジオパーソナリティ
'79年愛媛県生まれ。'99年に第2回公演よりヨーロッパ企画に参加。以降、全作品に出演。
舞台や映像作品やテレビ番組の出演に加え、ラジオパーソナリティや脚本家としても活動中。
主な出演作品:舞台「続・時をかける少女」(ニッポン放送/ぴあ/イープラス)、
「芝浦ブラウザー」(東京グローブ座+パルコPRESENT)、映画「パンク侍、斬られて候」
「鍵泥棒のメソッド」「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる野望」、テレビ「ヨーロッパ企画の暗い旅」(KBS京都/tvkテレビ神奈川)ほか

連続アジフライ小説~アジフライに恋して~1話2話はこちらから↑↑↑


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