連続アジフライ小説～アジフライに恋して～第1話「人気者の彼女とアジフライ」はこちらから≫

女「ねえ、どこに行くの？」

渡辺通りを天神から南に向かって歩きながら、彼女は訝しげに聞いてきた。

男「すぐそこだから」
女「ふーん」
男「お腹は空いてる？」
女「ぺこぺこ。だけどこんだけ暑いと食欲もなあ」
男「大丈夫。きっと食欲湧くと思うよ」

正午前の太陽は、まだ夏は終わらないよとばかりに僕らを照りつけていた。僕は彼女を呼び出してランチに誘ったのだった。

男「こないだの松浦での僕の失敗は許されるものじゃない」
女「大袈裟よ（笑）。あのときはなんかむかついたし、口も聞いてやるかって思ったけど」
男「ほんとにごめん」
女「私こそ、帰りの車の中でほとんど口聞かなかったのは、あとで反省した。けどなんか収まりつかなくなっちゃって。地獄の時間だったよね」
男「うん、松浦から博多ってすぐだけど、あのときは正直長く感じた（笑）」
女「もう別に許してるんだけど、一回怒っちゃうとどうやって仲良くすればいいか分からなくなるでしょ。なんかそういう感じになっちゃって（笑）」
男「だから、今日は僕に名誉挽回させてもらいたいっていうか、お詫びとして、すごくぴったりなのを見つけたんだ」
女「お詫びなんて別に」
男「ついたよ」
女「あ、梅山鉄平食堂！」

僕らは渡辺通りの路地を西に入った小さな食堂『梅山鉄平食堂』についた。

女「いちど来てみたかったんだ。おいしいお魚の定食屋さんなんでしょ」
男「うん、ここでアジフライを食べよう」
女「なるほどアジフライね。いいかも」
男「ただのアジフライじゃないんだ」
女「え？」
男「今日はここで、松浦のアジフライが食べられるんだ」
女「松浦の、アジフライ？」
男「うん」

この日、梅山鉄平食堂を松浦のアジフライがジャックしていた。ランチはすべてアジフライ定食。それもすべて、アジの水揚げ量日本一の松浦のアジを使ったアジフライだ。このアジフライを彼女と食べて、旅の失敗のお詫びになればと考えたのだった。僕らは運良くすぐに席に着くことができた。

女「食欲出てきた！」
男「こないだの旅の二日目にアジフライ食べられなかったからね」
女「あのときなんでアジフライ食べずに帰るなんてバカなこと言ったんだろって、実は帰りの車の中で思ってたんだ」
男「そうなの？」
女「そう言った自分に腹が立ってたのもあるかもしれない（笑）」
男「それはじゃあやっぱり僕のせいだ」
女「あとお腹すいて腹が立ってたのもある。女の子っていうのはお腹が空いたら機嫌悪くなるもんなの」
男「覚えておくよ」

機嫌が悪くなる前に彼女の元にアジフライ定食が届いた。見た目にもそれは熱々でカラッと揚がり、そしてジューシーにみえた。

女「アジフライってさあ、こうして反対向きにしたら、ハートの形してると思わない？」

彼女はアジフライをお箸で掴むと尻尾を下にして僕に見せた。

男「たしかに、微妙にハートかな」
女「ふふふ」

そう言って彼女は微笑んだあと、アジフライにかぶりついた。そしてまた僕にそれを見せると、

女「おいしい！あ、ハート欠けちゃった」

と言ってふざけてみせた。アジフライを食べると自然と心はジューシーに満たされ、そしてカラッと晴れやかになる。

男「君は、アジフライだ」
女「え？」
男「熱く快活で、人の心を満たし、そしてカラッと晴れやかな気持ちにさせる、人気者でとても魅力的で、毎日でも一緒にいたくなる」
女「ふふふ、私はアジフライね（笑）。じゃあ冷めたら美味しくなくなっちゃうからね～（笑）。冷めさせないでよね！」
男「は、はい！（被りつく）アツッ！！！」
女「ははは」
男「気をつけて、熱いよ！けどおいしい！」
女「うん」

ハート型のアッツアツのアジフライが僕らを笑顔にしてくれた。

おしまい

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ライター：石田剛太（ヨーロッパ企画）
俳優／ラジオパーソナリティ
'79年愛媛県生まれ。'99年に第2回公演よりヨーロッパ企画に参加。以降、全作品に出演。
舞台や映像作品やテレビ番組の出演に加え、ラジオパーソナリティや脚本家としても活動中。
主な出演作品：舞台「続・時をかける少女」（ニッポン放送／ぴあ／イープラス）、
「芝浦ブラウザー」（東京グローブ座＋パルコPRESENT）、映画「パンク侍、斬られて候」
「鍵泥棒のメソッド」「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる野望」、テレビ「ヨーロッパ企画の暗い旅」（KBS京都/tvkテレビ神奈川）ほか

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