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「イカ王国」筑前玄海のイカに、全国の美食家たちが注目する理由とは?

2024年02月19日 08:00 by simoonu(シモーヌ)

「日本人はイカが好き!」。巷でそういわれるほど、自宅の食卓や外食のシーンでイカを味わうことが多いですよね。そんな中、飲食業界や食通の間で「イカ王国」と注目されるのが筑前玄海エリア(宗像市、古賀市、福津市、芦屋町、岡垣町)! 魚種の宝庫である玄界灘に面しているので時期に応じて様々なイカが獲れて、地元ではイカを使ったご当地グルメも多数登場しています。

イカがたくさん獲れて、しかも新鮮でおいしいと評判の筑前玄海エリア。「イカ王国」といわれる所以をより深〜く探るために、取材班は鐘崎(かねざき)漁港へ!

鐘の岬活魚センターの竹浦 誠さんから「筑前玄海エリアで獲れるイカいかにうまいか」、その理由を物語るイカ釣りの背景について詳しくお話を伺いました。

 

■筑前玄海エリアが好漁場である理由

海の幸の宝庫である玄界灘に面していることが、筑前玄海エリアの漁獲量に紐づいていることはなんとなくイメージできるけど、もう少し解像度を高めて理解してみたい…!

竹浦さん:「まず一つ、玄界灘の特徴『潮の流れがとても速い』ことが大きく関わっています。栄養が豊富な対馬海流が流れ込むので肥えた魚が育ちやすく、筑前玄海エリアでも様々な魚が水揚げされるのです。海を見た時に、海面の色が違って見える箇所がありますよね。あれは水深の高低差などが関係しているのですが、さらに玄界灘をよ〜く見てみると、波風のない日は海面にくっきり潮目が現れることも。

この潮目は沿岸の水と外洋の水がぶつかるところで、栄養を蓄えたプランクトンが豊富に集まり、それによってプランクトンを餌にする小魚と、小魚を餌にする大きな魚が集まります。好漁場といわれる背景には、こうした海流と食物連鎖の結びつきがあるのです」

また水温も漁に大きく関係しているそうで、魚やイカを獲るための漁場の海水温(海表面水温)は17℃程度が適しているとされ、筑前玄海エリアの温度帯はまさに漁に適した環境だとか。

竹浦さん:「さらにもう一つ。近くの森林の土壌から生み出される栄養分やミネラルが、山から川、海へと流れ、食物連鎖で海の生き物たちに循環していきます。だからこのエリアでは天然魚が豊富に育つと言われています」

なるほど! 海だけでなく自然豊かな山が近い環境も、筑前玄海エリアの海の恵みの秘訣だったとは。これはきっとイカの成長にもいい影響を与えているはず…! 


■筑前玄海エリアは、なぜ「イカ王国」と呼ばれているの?

筑前玄海エリアの中でも宗像市にある鐘崎漁港は県内有数の水揚げ量を誇り、春は天然の真鯛や甘鯛、5月から11月頃まではアナゴ、冬はトラフグも全国トップクラスの漁獲高とあって有名です。気になるイカについてはどうでしょうか?

竹浦さん:「海の幸に恵まれた鐘崎漁港で、数多く出船しているのがイカ釣り漁船です。特にケンサキイカ(福岡ではヤリイカとも呼ばれています)の漁獲量が盛んで、4月から10月末頃まで水揚げされています。福岡産のイカブランド『一本槍』の多くもここから各地に運ばれていますね」

※一本槍:玄界灘の漁師たちが一本一本丁寧に釣り上げた胴長15cm以上のケンサキイカを指し、福岡名物として名付けたもの

ちなみに九州内のイカの漁獲量でいうと福岡県は第2位。その中で鐘崎漁港を含む筑前玄海エリアは、イカの漁獲量県内トップを誇ります。「イカ王国」と呼ばれるのも納得!

一年のうち長い期間水揚げされるケンサキイカを中心に、鐘崎漁港ではスルメイカやアオリイカなど、時期に応じて様々なイカが獲れるそう。でもやっぱり、市場でも引き合いが強いのはケンサキイカだとか。

加えて、筑前玄海エリアは漁場と漁港、飲食店が近いため、新鮮なイカを提供できる環境が整っています。この最高の立地も「イカ王国」と呼ばれる大きなポイントなのです…!


■イカ釣りに熱いこだわりを注ぐ、熟練の漁師さんの存在も大きい!

イカ釣り漁では、「最新の設備技術に頼るより“漁師としての経験値”が最も重要」と語る竹浦さん。例えば、ケンサキイカは「樽(たる)流し」という漁法が主流で、直径30cmほどの浮きに疑似餌を付けた漁具を使い、潮に乗せて流しながら手繰りで釣り上げています。そこで重要なのが風の動き、潮の流れ、どのポイントで漁をするかの判断力。仕掛けの流し方なども含め、経験値に裏打ちされた察知能力とテクニックが肝になるのです。

また漁で使う“道具”も漁船ごとにこだわりが光り、船内の生け簀(生け間)にイカの鮮度を保つための工夫が施されているそう。

竹浦さん:「釣ったイカはそのまま生け簀に移されますが、普通なら生け簀で泳ぐイカは壁に衝突して、体が擦れて傷んでしまいます。これが鮮度に影響を与えるので、漁師さんたちは自分たちで生け簀の内側に柿渋を塗っています。柿渋を塗ることで壁の表面がツルツルして、衝突による傷つきを防ぐのだとか」

デリケートなイカへの配慮は他にもたくさん!

イカは体温が高い人の手に触れると火傷してしまい、これも鮮度を落とす原因になるので、釣り上げる際は極力イカに触れないように気を配っているそう。釣ったイカを生け簀に移す際も慎重に行います。イカの体内に空気が入ったままだとイカの体力が奪われ、これまた鮮度に影響を及ぼすので、空気が抜けやすくなるよう横向きに、丁寧に生簀へ移すことが重要だそうです。

さらに、イカ同士がぶつからないように複数の生け簀に分けたり、酸素を送るエアーポンプも都度調整したり、一つひとつの繊細な気配りが高鮮度なイカの提供につながるのです。


■こだわりは漁だけにあらず! 魚が住みやすい環境づくりとたゆまぬ努力

漁師さんたちの海に対する熱意は、漁のシーンだけでなく、日頃の習慣にも現れています。

竹浦さん:「みなさんそれぞれ、漁に出た時に漂流ごみを見つけたら回収したり、海面に丸太が浮かんでいたら漁港まで持って引き上げたり、漁をしながらきれいな海を守る取り組みを行っています。こういった小さな積み重ねが海の生き物を守り、トップクラスの漁獲量につながるのだと思います」

漁以外の場面で漁場を守る取り組みがなされ、イカが傷つかないように様々な工夫と配慮を尽くし、新鮮でおいしいイカを届けてくれている… 漁師さんたちの手間ひまと努力に脱帽です!


■イカの旬は? 漁業のプロはイカをどう楽しんでいるの?

ひとくくりにイカと言っても獲れる時期、産地(海域)、種類、大きさによって味わいや食感が異なります。私たちが親しみやすいのは、玄界灘で多く漁獲されるケンサキイカ。ところが、同じケンサキイカでも夏と秋では味の印象が大きく変わると竹浦さんは語ります。

・夏イカ:身が薄く、胴体が長くて見栄えが大きいのが特徴。透明感があり涼しげで、刺身としても人気が高い。
・秋イカ:通称「ぶといか」と呼ばれるほど肉厚。魚で言う脂が乗った状態で、甘味や旨味が強い。

竹浦さん:「ケンサキイカはねっとりとした食感と甘味のつよさが特徴で、夏と秋で味わいが絶妙に変わります。どちらが自分好みか、同じイカの同じメニューを時期によって食べ比べてもらいたいですね。飲食店によって提供の仕方は様々だと思いますが、やっぱり新鮮な活イカは刺身や丼物でいただくのが1番おすすめ!」

そして、イカ通ならではの楽しみ方も教わりました。

竹浦さん:「一般的に活イカは姿造りを楽しみ、ゲソやミミを天ぷら、塩焼きにしていただくことが多いと思いますが、ゲソやミミも一度刺身で食べてみてください。部位ごとに食感が全く異なるので、好みの部位や味わい方を探るのもイカの楽しみの一つです。ぜひ飲食店の方に、全て刺身にしてもらえるか尋ねてみて」

加熱したり調味料を加えたりせずとも、新鮮なイカを刺身などでシンプルに味わえば「イカってこんなにおいしいんだ…!!」と驚きと感動を体感できるはず。

竹浦さん:「イカの刺身をいただく際、醤油によっても味の印象が変わるので、飲食店の卓上にいくつか種類が置かれていたら、いろいろと試してみるといいですよ。個人的には刺身醤油ではなく、生醤油とワサビで味わうのが好きです」

イカMAPに載った飲食店でも、竹浦さんのアドバイスを参考に自分好みのイカを、そしてお気に入りの食べ方を探してみてくださいね♪


■漁業のプロが注目する冷凍イカも気になる…!

ちなみに、食品の冷凍技術が発達している昨今。その恩恵はイカ業界にも届いているそうです。

竹浦さん:「活イカとして遠方に配送するより、冷凍にして運んだ方が鮮度を担保できるケースもあるので、鐘の岬活魚センターでも冷凍技術を駆使して冷凍イカを作っていますよ」

新たに飛び出してきたキーワード、冷凍イカ。気になるその凄みについは、次の記事で詳しく紹介します。イカ好きは必見です! どうぞ続きをお楽しみに♪

取材・文:simoonu(シモーヌ)
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