グルメ | 日々是食欲

愛と尊敬。飲食店の店主と弟子たち。

2011年06月09日 08:00 by 弓削聞平

 現在発売中の「ソワニエ」の巻頭企画は「愛弟子たちにみる、たらふくまんまの遺伝子」という企画。わずか6ページの企画だが、これがなかなか評判がいい。
 福岡飲食業界で「系譜」といえば真っ先に頭に浮かぶのは寿司の「河庄」だろう。福岡のあちらこちらでみかける「○庄」という看板。店名に「庄」がつくのは「河庄」出身の店の印とされている(例外もあるかもしれないけど)。歴史もあるし、とってもわかりやすい。
 一方今回の「たらふくまんま」の場合は、「えっ、あそこも『たらふくまんま』出身だったの?」という店が多い。なにしろ店名に一貫性はないし、業態でさえバラバラだ。これでは自分がよく行っている店であっても、そこが「たらふくまんま」出身であることを知らないのも無理はない。
 「たらふくまんま」は1988年、春吉にオープンしたごはん処だ。当時の春吉といえば、今と違ってどちらかというと怪しい街で、「春吉? あぁあのラブホテルがいっぱいあるところね」というイメージが強かった。そんな街にかがまねば入れないような入口を備え、とっても地味〜に路地に佇み、ある意味その怪しさは春吉という街らしかった。「メニューに価格表示がない」「とんでもない値段になった」という評判もあちらこちらで聞いたものだが、よそでは味わえないようなピカイチの食材、そして料理の数々は、やがて全国から客を呼び寄せるようになった。そして強烈な個性を放つその店に、高い志をもった料理人たちが次から次に門をたたいたのだ。
 最初に独立を果たしたのは大楠の「くーた」だ。今では西中洲、そして銀座と六本木に店を構える名店だ。その後も和食、居酒屋はもとより、ワインバー、おでん屋、蕎麦屋とバラエティあふれる布陣が揃っていく。
 今回の企画でもっとも強く感じたのは師匠と弟子たちの信頼感だ。あくの強い店主、そして弟子たちはもちろん衝突することもあったに違いないが、その根底には「愛情」と「尊敬」がある。これこそ最近少なくなってきたよき徒弟のシステムだ。今後、福岡においても、こういう関係をもつ、すてきな系譜が増えていってくれることを願っている。

http://www.web-soigner.jp/

取材・文:弓削聞平
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