まち | ひと

つむぐ想い。つなぐ未来。conext:vol.3 下野弘樹さん

2016年09月28日 18:00 by 山内淳

CONEXTはアクションを起こしたい人たちに贈る情熱伝播サイトです。自分らしくカッコよく生きる大人たちはどのように働いているのか、なぜいつもやりがいのある現場にいられるのか、どうしてやりたい仕事が巡ってくるのか。一方で夢を追う若者たちは何を考え、今、どのように行動を移そうとしているのか。そんな大人と若者をCONNECT(繋ぎ合わせ)して、NEXT(次)ステージへ。


清川(福岡市中央区)のマンション1階にある約110坪の空きスペースを利用して、畳2畳分の1坪ショップを11店舗集めて賑わった「清川リトル商店街」(2016年3月1日~7月31日に実施)。仕掛け人の下野弘樹さんは思いもよらぬ場所の使い方で、関わる人とまちを楽しませてくれます。その豊かな発想力はどこから来るのか、どのように行動すれば実現できるのか尋ねました。

―― 下野さんの肩書きと主な活動を教えてください。

「未来の発明家」という肩書を昨年から使っています。一般的な言い方に当てはめると、「企画系フリーランス」といったところでしょうか。現在は不動産の空きスペースや公共空間の活用法を発明して、未来のまちづくり的な活動に関わることが多いです。

―― 空きスペースの活用法は、販売イベントが多いのですか?

今回はたまたま「商店街」という企画だっただけで、立地や広さ、関わる人によって内容はさまざまです。「誰が」「どのように」場所を使うのか、という提案がここ数年の主な活動です。場所に関わるいろんな分野の新規事業や新規プロジェクトに携わり、実験を重ねていく過程で、「これが正解だ」と思う方向に進めています。

―― 空きスペースの活用法を考えるのは難しそうですね。

オーナーや管理する方のオーダーを受けて考えることもありますが、その時々に自分がやってみたいことを提案しています。新しいことを始める時、正解なんて誰も知らないじゃないですか。まちづくりに際して行政が社会実験を行うように、少しずつ段階を踏みながら改善・軌道修正をしています。「清川リトル商店街」もスタート時と終盤ではまったく違った姿になりました。各店DIYしたものが増えたり、ディスプレイを工夫したり……。どの店舗も見せ方が変わり、接客などお店の人のレベルも格段にアップしました。

―― 下野さんが出店者に指示やアドバイスすることはありますか?

みんなで意見を出し合うブレストを月1回開きましたが、基本的に僕から何かを指示することはありません。ファシリテーターとして、アイデアや意見を引き出すのが僕の役割です。「清川リトル商店街」を運営していく意識を全員に待たせ、コミュニティをマネジメントしていました。

―― 現在の活動のきっかけは何ですか?

東京ではNPOを支援するベンチャー企業で働いていましたが、「会社員では働き方が制約される」と感じるようになり、働き方に対しての問題意識が常々ありました。もともと自分で何かをしたいというのが漠然とあったのと、働き方の選択肢を増やしたいと思ったのがきっかけです。ひとつの業種に縛られることなく、多分野にわたる複数の仕事を同時進行したり、かけ合わせたりするスタイル。一般的に副業といえば本業とは別の仕事をサブ的に持つことを指しますが、僕の場合はどれが本業という線引きがないので“複”業と呼んでいます。

―― いくつもの違った分野に力を注げるエネルギーがすごいですね。

それはズバリ「好奇心」です。昔からいろんな分野に興味・関心がありました。

―― その好奇心や行動力の原点は?

うちの家庭は超放任主義。両親から直接言われたことはないですけど、「好きなことをやっていいけど、責任は自分で取りなさい」というスタンスでした。学校や近所の友達、同世代ではない大人たちと関わることが多かったですね。この超放任主義のおかげで、「何でも自分でやる」という主体性が身に備わりました。子供の頃にちょっとしたイタズラを色々としていたことが、今も好奇心や想像力、リスクヘッジの根幹となっている面もあるかもしれません。​

―― 現在の活動において、下野さんが影響を受けた人物はいますか?

「クルミドコーヒー」(東京都国分寺市)の影山知明さんに出会って、「この人カフェ以外に色々やってるけど何者なんだろう」と思ったのが始まり。自分の世界を広げることができた、僕のロールモデルです。たまたま行ったイベントのゲストに景山さんが出演していて興味を持ち、後日またお会いする機会もあり、直接お店まで足を運びました。ほかにも気になった方に会った時は「今度、お話する時間をいただけませんか」とその場でお願いすることもよくあります。

―― その行動力に脱帽です。

もしダメで断られても、「タイミングが悪かったのかな」と思えばいいだけ。別に断られたくらいで、こちらは失うものなんて何もないじゃないですか。行動することで得られるものを考えれば、ただ聞くだけのことをしない理由はありません。とりあえず何事もやってみないと。インターネットで調べてなんとなく分かった気になるのは簡単ですが、自分が見聞きしたことしか僕は信じていませんから。

―― 好奇心で始めたけど飽きたり、活動がうまくいかない場合もありますよね。

多くの人が関わっていなかったり、迷惑をかける人がいなければ、プロジェクトを休止したり止めてもいいと思っています。実際に休止や中止したものは、いくらでもありますよ。止める理由や反省点を明確にしていれば、次の活動の成功に繋げられるはずです。

―― 下野さんの活動に欠かせない場所や人はどうやって探してくるのですか?

周りに不動産関係者が多いので、民間の空きテナント情報は入ってきやすいですね。特にここ数年でネットワークが充実しました。アーティストなど直接面識がない人物でも、いろんなジャンルにハブとなる人がいるので2~3人に問い合わせれば繋がりそうです。さまざまなプロジェクトに関わるたびに、どんどん人脈が広がっています。

―― まちや人を巻き込んだ活動の魅力とは?

僕の役割をカッコよく言えば「演出家」。与えられた舞台(場所)をどう見せるかを考える(発明する)のが仕事です。場所に関わる人たちにドラマが生まれるので、そういった環境を作ることに楽しさややりがいを感じます。人生を自らデザインできる人が増えれば、まちも豊かになるんじゃないでしょうか。働き方なり、暮らし方なり、自分で自分の生き方を選べる人が増えたらいいな、と思っています。商売だったり、アーティストの表現の場だったりジャンルは多種多様でも、場所とそれを求める人がいれば何でもできる。そんなステージをまちにたくさん作っていきたいです。

―― ソーシャルデザインへの意識はありますか?

前職のベンチャー企業もソーシャルビジネス系でしたが、僕としてはあまり意識していません。まちや社会に関わることを仕事としていますけど、「まずは自分のため」というのが第一です。自分の住む街がよくなれば、自分にとってプラスになる。それが周りの人にとっていいことであれば、「なお良し」というだけ。大それた理由ではなく、「自分がまちを好きに使いこなしたい」というのが活動の根底にあります。

―― 天神に「こんな場所を作りたい」とかありますか?

ある大学生から「天神には買い物にしか行かない」と聞きました。僕はいろんな場所に関わりながら活動しているので、天神をそんな風に思っていませんでしたけど、一般的な生活者にとっての天神の在り方を聞いた時に残念な気持ちになりました。生産・創造・体験など、買い物(消費)以外の目的を持って過ごす場所がもっとあってもいいと思います。

―― これまでの活動での苦労や困ったことは何ですか?

基本的に僕は悩まないスタンスなんですよ。人生で悩んだことないんじゃないかな(笑)。それは性格的に鈍感なのと、ポジティブなのが要因だと思います。あえて挙げるなら、まだ独立した最初の頃はたくさんの人と関わることが多いので、連絡事項の伝え忘れなど、注意力散漫になってしまうところが多少ありました。そのため、すぐ改善できる仕組みを作りました。すべてを覚えておくことはできないので、「エバーノート」というツールを使って管理しています。「人は忘れるものだ」という前提で、プロジェクトメンバーにも「僕が忘れていたら教えて」と言っておくことで、リスクヘッジをするように心掛けています。

―― 下野さんはどんな若者と一緒に働きたいですか?

「社会のために」なんて建前はいらないので、自分の行動に理由や動機がある人。違和感でも疑問でもいいので、自分が行動する理由をちゃんと自分の言葉で話せる人です。

―― 今後の目標や夢は何ですか?

自分には不動産や建築分野の方にはできない場所の発明ができると思うので、これからも場所に関わっていきたいです。いま注力しているのは、自分の生き方をベースに小規模な商売を始める人を増やすこと。これを「小商い」と呼んでいて、その方たちの活動場所を作ることです。また、「清川リトル商店街」ではスケルトン状態のスペースに、取り外し可能な可動式の小屋型ショップを導入しました。​初期投資にお金をかけず商店街を造れたことは、マンションのオーナーにとってもすごく大きなメリット。新しい場所の使い方として評価されたと思います。このように住まい・仕事場・お店・趣味などの新たなライフスタイルを実現する「小屋」の活用も目標です。そして、やりたいことを仕事にできる人を1人でも多く増やすことが夢です。

 

下野弘樹 Hiroki Shimono
1981年長崎生まれ。東京でNPO支援のベンチャー企業を経て福岡で独立。まちとひとの未来の発明をテーマに多分野で新規事業やプロジェクト中心にプランナー・ディレクターとして活動。清川で1坪ショップが並ぶ「清川リトル商店街」や、天神のオフィスビルにて多分野の若い世代が集まるクリエイティブな活動拠点「Future Studio 大名+」を企画運営するなど、新たな場の使い方を発明している。多彩な引き出しと繋がりを活かして、企業やまちの課題に対して新しい視点から創造的なアイデアを小さく生み育てている。​

●下野弘樹図鑑
http://shimonohirokizukan.com/

 

conextに関わりたい25歳以下のヤル気ある男女を募集しています。以下のフォーマットからご応募ください。


●取材を終えて
旺盛な好奇心とポジティブマインドの持ち主。この2つが下野さんの活動を大きく支えています。自分自身が興味・関心のあることを突き詰め、自分のために行動を起こし、それが結果的に関わる人やまちを幸せにしていくという図式に心を動かされました。場所をうまく活用することで、やりたいことを仕事にできる人が増えるための仕組みを展開する下野さんの活動は、これからも多くの人に支持され広がっていくと思います。

取材・文:山内淳
このライターの他の記事を読む

関連するトピックスTOPICS

PAGE TOP