日々是食欲
身近になったスパークリングワイン
2014年09月11日 08:00 by 弓削聞平
ひと昔前、シャンパンやスパークリングワインといえばお祝いの席くらいでしか飲めない特別なお酒だった。いや、もちろん一部の富裕層や愛好家の方々は、日常的に飲んでいたのかもしれないが、今のようにどこでも誰でもポンポン空けるシロモノではなかったはずだ。
それには、安価なスパークリングワインが普通にスーパーやコンビニでも買えるようになったという輸入・流通の問題もあるのだが、飲食店においてもどこでも飲めるようになったのはここ10年くらいのことだ。いや、もちろん以前からレストランなどではどこでもオンメニューしてあったのだが、今はレストランだけでなく、ビストロやバルなど、カジュアルな店でさえ、シャンパンやスパークリングワインをグラスで提供するのは当たり前になった。以前は「白や赤はグラスでご用意していますが、シャンパンはボトルだけなんです」という店が多かった。しかし、シャンパンは価格的にもそこそこするというのと、最初はシャンパンを飲みたいが、途中で白ワインや赤ワインに移行したいというカップルなど少人数の客にとって、よほど酒量に自信がある人じゃないと、シャンパンをボトルで空けるというのは勇気のいる行動だった。以前はまだまだスパークリングワインを飲む人も多くはなかったから、店としてはグラスで提供すると(ボトルを空けてしまうと)ロスが出るという実情があり、ボトル提供のみのところが多かったのは無理もない。
ところが、今のようにスパークリングが身近な存在になると、最初は1杯、グラスでスパークリングをという客も多いので、店側もグラス用にボトルを空けてもロスが出にくくなる。そうしてグラスでも気軽に飲めるようになると、飲んでみようという人も増えてくる。鶏が先か玉子が先かではないが、グラスでの提供とスパークリング愛飲者の増加はそんな関係にある。
数年間からスパークリングワイン全般を「泡」と呼ぶ人たちが増えてきた。ワインバーなどでは黒板メニューなどに泡、白、赤と表記されていることも珍しくない。個人的にはこの呼び方にはなんとも言えない恥ずかしさがありあまり使わない。その恥ずかしさの根源は元々「ワイン通の人たちが発泡系ワインのことをそう呼び出した」からのような気がする。ぼくの場合、ワインの知識はほとんどないので、いくら黒板に「泡」と書いてあっても、“ツウっぽい”その呼び方に抵抗があるようだ。もはやそんなこと気にする必要もないんだろうけど、どうも自分自身なじめないでいる。
スパークリングワインもものすごく選択肢が増え、中にはグラス500円で出しているような店もあるが、当然、それは値段相応のスパークリングだ。高価なシャンパンとは香りも味も泡の細やかさが勢い、つまりシュワシュワ感もまるで違う。しかし、ハイボール、モヒート、炭酸系飲料など、発泡系ドリンクが右肩上がりの人気を博している今、とりあえずシュワシュワワインが予算に応じて楽しめるのはうれしいことだ。でも、やっぱりお祝いの席などでは、ただシュワシュワしてればいいってことではなく、それなりにお金も出してちゃんとおいしく、泡質もいい上質なスパークリングやシャンパンを飲みたいものだ。
[注]
「スパークリングワイン」は、一般には3気圧以上のガス圧を持った発泡性ワインの総称です。(3気圧以下のものは弱発泡性ワインといいます)。その中で、「シャンパン」はフランスのシャンパーニュ地方でつくられ、かつフランスのワインの法律(AOC法:原産地呼称管理法)に規定された条件を満たしたもののみ名乗ることができる名称です。条件にはつくられる地域やぶどうの品種、栽培や伝統的製造方法(メソード トラディショナルと呼ばれる製法で、 シャンパン製法とも呼ばれる)、アルコール度数などの項目があります。
「シャンパン」以外の「スパークリングワイン」では、イタリアのスプマンテ、スペインのカヴァなどがよく知られています。
取材・文:弓削聞平
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