日々是食欲

飲食店の切実なる悲鳴が聞こえてくる

2014年06月12日 08:00 by 弓削聞平

飲食店の人手不足が深刻化している。ニュースなどでも報道されているのでご存知の方も多いだろうが、牛丼の「すき家」が人手不足により、今年の冬、100店舗以上が休業に追い込まれた。また「ワタミ」が昨期1996年の上場以来はじめて赤字になったが、その要因の1つも人手不足による店舗閉鎖と言われている。福岡もその例外ではない。日々飲食店を利用したり取材していても、オーナーの悲鳴を聞かない日はない。多くの個人店は求人誌に募集を出す資金を捻出できないので、SNSを利用したり、店頭に貼り紙をしたり、知人に「誰かいたら教えて」と言うくらいしか手はない。そもそも昨今、業種や立地などによっては、求人誌に募集を出しても1件の問い合わせもないことも珍しくない。ぼくらがまだ学生の頃といえば、30年も前の話だから比較するのもなんだが、飲食のアルバイトは決して人気がない業種ではなかった。友達ができるし、楽しいし、なによりまかないがつくというのが一人暮らしの学生などにはうってつけだった。しかし今は本当に人気がないようだ。

飲食店の数はそう極端には増えてないと聞く。いや、さすがに30年前に比べたら増えてるかもしれない。ショッピングセンターをはじめ商業施設がたくさんできてそこには飲食店も入っている。しかし当然飲食より物販の方が多く、そちらもスタッフは必要なので、飲食まで人がなかなか回ってこない。なにより以前はいろんなお客さんとのコミュニケーションが楽しかったものだが、今はむしろ知らない人と話をするのが嫌という人も多いと聞く。

もちろん今でも飲食店で働くことを楽しんでいる人もたくさんいるのだが、アルバイトの選択肢が増えているのも飲食店のスタッフ不足の要因の1つだ。特にネット系なんて、昔は仕事自体が存在しなかったわけだから。また通販も増えた職種の1つ。これもネットの普及と大いに関係あるわけだが、あらゆるところが通販に力を入れているので、その受付(コールセンター)、梱包作業、そして配送だって昔より格段に人材を必要としている。そうそう、コンビニや弁当店だって、その数は年々増えているから、そこにもアルバイトは当然必要だ。

そんなふうに、飲食店にアルバイトがなかなか集まらなくなっているのが実情だ。そういえば、先般福岡から東京に出店した飲食店のオーナーが、「お客さんは来てくれるんだけど、スタッフが集まらなくて……。時給を1,200円にして求人誌に出したけどそれでも応募がない。福岡も人手不足だけど東京はもっとひどい」と嘆いていた。そこは立地も街中だし、オシャレな商業ビルの中の店だ。それでもそんな状況。実は以前ぼくが経営している店も、通常は年中無休なのだが、やはりアルバイトが集まらず、スタッフがまったく休めないので、やむをえず定休日を作ったことがあった(その状態が3カ月続いた)。一体、どうすればいいのか。飲食店の人たちは皆、途方に暮れている。

飲食店の仕事は立ち仕事だし、大変なこともあるけれど、他の仕事では得難い感動もあるし、そこでの人との出会いはその先の人生の大きなきっかけになったりすることもある。ぜひ臆せず扉を叩いてほしいなぁ。ぼくの周りには学生時代に飲食のアルバイトをしたことがきっかけで、その道に入った人が少なくない。それまではさして興味はなくたまたま働いた店で、飲食の楽しさにめざめたということだ。料理の道に入る人、サービスの道に入る人、お酒の道に入る人。その方向はいろいろだけれど、自分の人生の岐路になるかもしれないし、そこまでならなくても、その経験はこの先どういう仕事に就いても、きっとプラスに働くはずだ。 




カウンターをはさんでお客さんと楽しいひと時。

取材・文:弓削聞平
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