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福岡で初の個展を開催!今注目アーティスト・矢入幸一氏にインタビュー!!

※このイベントは2023年2月26日(日)をもって終了しました。

2023年01月27日 18:00 by simoonu(シモーヌ)

唐人町に昨秋オープンしたアートスペース『cassette(カセット)』にて、1月27日(金)よりグラフィックアーティスト・矢入幸一氏の個展がスタートします。
矢入氏といえば、モノクロを主軸にしたオールドカートゥーンスタイルのペインティングが特徴的。ロンドン、韓国、日本など、国内外でエキシビションを開催し、クライアントワークではレコードジャケット、キャラクターデザイン、アパレルブランドのアートワークも手がける今最注目のアーティストです。また、作品のアイコンとなっている「Ghost(ゴースト)」も、ストリート&アートシーンで人気を集め、たびたび話題に!

出典:Koichi Yairi Portfolio Siteより


そんな矢入氏が福岡で初の個展を開催! エキシビションのタイトルは「Planet Cerenkov -惑星チェレンコフ-」。2021年の個展「Avalanche」、2022年の個展「SCENE」に続き、展示全体がストーリー仕立てになっていて、ゴーストたちが織りなす宇宙旅行の物語を、まるで絵本をめくるように楽しめる展覧会です。

photo: Yusuke Nakamura

スプレーやアクリル絵具、プリンタ出力など、デジタル×アナログの異なるレイヤーを掛け合わせて一つの絵画を作り上げる、矢入氏の特異な手法。それに、愛嬌たっぷりのゴーストたちの表情・描写・ストーリー性が加わり、子どもから大人まで楽しめるアート作品がずらり!

photo: Yusuke Nakamura

今回、在廊中の矢入氏にインタビューを行い、作品のコンセプトから制作の裏話、ストーリーに込めた思い、また自身初の福岡での個展に対する意気込みなどを語ってもらいました。


―― 矢入さんはモノトーンをベースに、ごく限られた配色の中でキャラクターを表情豊かに描かれていますよね。今回の展覧会はブルーの色彩が印象的で、今まで以上にスケールが大きく、かつ世界観の広がりを感じました。

矢入:
そうですね。モノクロを基調とする配色と、ドットやペイントなどの掛け合わせによって奥行きを持たせるテクスチャーを、いつも実験しながら楽しんでいます。今回は「チェレンコフ」というネーミングの通り、チェレンコフ放射(※)の「青」をテーマカラーに、モノトーン×青で構成しました。

photo: Yusuke Nakamura

※チェレンコフ放射:1934年にロシアの物理学者チェレンコフが発見した光の放射現象。荷電粒子が物質中を、その物質中での光の速度よりも速く走るときに青い光を起こす放射現象のこと。「チェレンコフ光」とも呼ばれる。

―― 作品に登場するキャラクター「ゴースト」たちの表情もかわいらしくて、一点一点に個性と親しみを感じました。

矢入:ありがとうございます。あのキャラクターは、以前行った書店とのお仕事をきっかけに誕生したもの。「書店に並ぶいろんな本にそれぞれオバケが宿っていたら…。人がいない閉店後に本のオバケたちが出てきたら…」という空想を、キャラクターとして形にしたんです。今は3つのゴーストがいて、表立って解説はしていませんが、物事を達観した視点で捉えるゴースト「Moony」を中心に、慎重派のゴーストとおてんばのゴースト、それぞれ性格が違うもの同士が集まっている設定です(笑)。


―― それぞれの性格を知ると、より一層ゴーストたちに愛着が湧いてきますね。矢入さんは作品づくりにおいて、どんなものにインスピレーションを得ていますか?

矢入:割と日常で目にするものからヒントやアイデアを得る機会が多いですね。今回の「チェレンコフ光」もテレビ番組で知り、その現象と発見に至った背景が興味深くて、いつか作品に繋げられたらなと思っていました。このように、今まで知らなかった歴史や地政学、化学的現象、特になぜそれに至ったかの過程=ストーリーに関心があり、そこからインスピレーションを得ることも多々あります。


―― 今回の展覧会はキャンバスの絵画のほか、立体的な造形作品も加わることで、アート鑑賞の流れにアクセントがつき、ストーリーの側面まで楽しめて面白かったです。

矢入:会場の『cassette』は地上2階、地下1階の3フロア構成とあって、より広く、より多面的に、展示の演出について考えることができました。絵画だけでなく、ZINEを通してサイドストーリーを伝えたり、造形作品で「Planet Cerenkov -惑星チェレンコフ-」(以下、惑星チェレンコフ)の世界を表現したり、さまざまな視点から惑星チェレンコフのストーリーを楽しんでもらえるよう随所に演出を施しています。

photo: Yusuke Nakamura


―― なるほど! フロアごとに展開が変わる演出も新鮮でしたし、単体の作品だけでなく展覧会全体を通して、物語の世界に没入できました。ところで、この惑星チェレンコフの構想は何をきっかけに生まれたのでしょうか?

矢入:僕自身、その土地のそのギャラリーでできることに最大限ベストを尽くしたいと常々考えています。昨秋行われたKYNEさんの個展を観に『cassette』を訪れ、そこで目にした空間デザイン、例えば丸い照明が連なる天井や、むき出しのダクト、地上と地下を覗けるガラス床など、建物全体に宇宙っぽさを感じ、「チェレンコフ光」で得たインスピレーションと結びつけました。


―― 一つひとつの絵画はもちろん、「惑星チェレンコフ」のストーリーも胸に残りました。この物語にどんな思いやメッセージが込められていますか?

矢入:日常生活の中で些細なことでケンカしたり、自分の苛立ちを他者に当たってしまったり、相手の気持ちを思って行動できない場面がありますよね。もちろん僕にもあります。どんなときも、自分の視点だけでなく相手の立場になって物事を考えることが大切。身近に起きる小さなトラブルも、角度を変えて考えると解決することが多いんじゃないかな。僕の作品の根底にはそんな裏テーマがあり、これは前回の個展「SCENE(シーン)」にも共通する部分。現実世界とはまた違う「惑星チェレンコフ」のストーリーを通して、“大切なこと”を楽しみながら感じ取ってもらえたら嬉しいです。


―― 展示全体が一つの物語になっていて、そこに並ぶ約30もの絵画が物語のピース(かけら)になっている。壮大なスケールで作品づくりに取り組む矢入さんは、構成作家の才能も持ち合わせているのでは…!?

矢入:恐縮です。でも確かに僕自身、描く題材の前後のシナリオまで考えながら制作することが多く、そういう前後のシーンをつなぎ合わせて、自分が思い描くものを表現していきたいと考えています。表現のベースは絵画なので一点一点集中して取り組んでいますが、個々を合わせて全体で何か大切なことを伝えたい、という気持ちが大きいのかもしれません。

展示全体で一つの物語を描くエキシビションは今回で3回目。僕の中で、5回くらいやったら過去の作品を1冊の本にまとめたいなと思ってるんです。それからアニメーションに展開するのも面白いですし、より世界観を膨らませていけたらいいなぁとひっそり心の中で温めています。


―― それは楽しみです。ちなみに、今回の個展でチャレンジしたことはありますか?

矢入:本編では拾いきれないサイドストーリーを何か形にしたいなと思い、今回ようやくZINEとして落とし込みました。作品に脇役として登場しているキャラクターたちの性格やバックグラウンドをZINEに描き、「惑星チェレンコフ」の物語で起きたものや見たものの背景を知ることができます。ビハインドを理解することで、物事の本質を知ることができるように、実生活でも目の前のことの側面や裏側を知る姿勢を持ち合わせていたいという、僕の思いや価値観を投影しています。


―― 福岡で初の個展ということで、楽しみにしていることはありますか?

矢入:
福岡だからこそ来てくださるお客様も多いと思います。また福岡を拠点に活動されている作家さんやショップで働かれている方、本屋さんの方など、たくさんの方々と出会えるのも楽しみです。基本的に2023年1月末までは在廊する予定なので、よかったら気軽に声をかけてみてください。
ちなみに、天神にはおいしい食べ物がたくさんあると聞いているので、ローカルフードをいろいろ味わいたいですね。今いろんな方におすすめスポットを聞いているので、できるかぎり回ってコンプリートしたいです(笑)。


―― 最後に、展覧会ではここに注目してみて、というチェックポイントを教えてください。

矢入:自由に楽しんでいただきたいと思いつつ、しいてあげるとすれば、ガラス床と天窓から眺める造形作品でしょうか。多角的にアートを鑑賞でき、角度によって見え方が変わることで世界観の捉え方も広がると思います。あと、ZINEやエディション作品、ステッカーなどのグッズも一つひとつがスペシャルなので、ぜひチェックしてみてください。



●PROFILE
矢入幸一 / Koichi Yairi
1992年生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。ロンドンや韓国、日本など、国内外で個展を開催。クライアントワークでは、レコードジャケット、キャラクターデザイン、アパレルなどへのアートワークの提供などグラフィックアートを軸に活動中。
https://www.koichi-yairi.com/
Instagram:@koichi_yairi

取材・文:simoonu(シモーヌ)
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会場 cassette(カセット)
期間 2023年1月27日(金)~2023年2月26日(日)
時間 11:00~ 19:00
定休日:水曜
主催者URL https://cassette-f.jp

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