右から、「ダイキョーバリュー」の代表取締役社長の杉慎一郎さんと「三声舎」三好剛平さん

まち | ひと

超ローカルスーパーが歩む“お客様との幸せな関係づくり” 【TABLE SESSION TENJIN Extra edition】

2022年01月08日 11:00

“まちづくりは人のつながりづくり”をコンセプトに毎月開催されているトークイベント「TABLE SESSION TENJIN」。今回はいつもの水曜日ではなく金曜日に開催された““Extra edition”をお届けします。
モデレーターには、映画や美術など文化系プロジェクトを多数手掛ける「三声舎」三好剛平さん。そして、ゲストには、福岡市弥永店をはじめ、九州で6店舗展開するスーパー「ダイキョーバリュー」代表取締役社長の杉慎一郎さんが登場。

実は、こちらの「ダイキョーバリュー」と言えば、自由すぎる品揃えやイベントで“ファン”を超えて“マニア”を多数生み出す伝説のローカルスーパーなんです。
大手が台頭し、昔ながらの個人商店の灯火が消えかけている昨今、お店では生き残りのためにどのような取り組みを続けていらっしゃるのでしょうか?
三好さんと一緒に、「ダイキョーバリュー」の秘密を探ってみましょう。

三好さん:「実は今日のイベントをSNSにアップしたら、 “ダイキョーバリューならオレのほうが絶対好きだからな”みたいな圧のこもったコメントが恐ろしいくらい届きました(笑)きっとこの会場の皆さんも“そこに座るべきは私なのに!”なんて思ってらっしゃるかも。それくらいダイキョーバリューは人を夢中にさせる場所なんですね」
“初めて見た芸能人はダイキョーバリューのイベントで見たばってん荒川だった”“地元の店舗が無くなって寂しい”“大手とこれからどう戦っていくのか聞きたい”…など、参加者の皆さんからも親しみを感じるご意見が多数寄せられ、トークショーというよりもファンイベントのような温度感です。

●「ダイキョーバリュー」の成り立ち
トークは、ダイキョーバリュー創成期のお話からスタート。プロジェクターには、一号店となった弥永店の画像が次々に映し出されます。時は1977年、杉さんのお父様である先代社長がオープンしたそうです。

杉さん:「僕は幼稚園くらいだったので分かる範囲で言いますと、当時は人口がどんどん増えていた時代ですね。だから商品を集めることが最重要視されていて、大手スーパーが力をつけていました」

三好さん:「ダイキョーバリューさんも大変な盛況だったのでは?」

杉さん:「いえいえ、デパートやスーパーが乱立していたので、お客様の取り合いです。店舗前の駐車場で夏祭りを開催したり、芸能人を呼んでサイン会をしたり。当時のスーパーは集客も大事な要素だったんです」

杉さん
「これは今も続く“日曜朝市”ですね。スーパーも面白い要素を出さないといけないので、こういった催しをやっています。キッチンカーを呼んだり、できるだけお客様と接する機会を増やしているんです」

●現代は“胃袋を奪い合う時代”

三好さん:「今も手作り惣菜を開発したり、地域と連携したり、新しい事業を始めたり、スーパーとは思えないような取り組みをやってらっしゃいますよね。
まず気になったのは、店内のテナントです。精肉店、魚屋、八百屋とそれぞれ2店舗ずつありますけど、どんな狙いがあるんでしょう?」

杉さん:「弥永店の2ライン(店内競合)ですね。これは人口が増えている状況で始まったもので、同じ業種のテナントが2店あれば競争が生まれます。もし片方にクレームが来たら、もう一方に行けばいいですから。でもね、少子高齢化時代に入るとお客様の数自体が減って、うまく機能しなくなってしまったんです。
皆さんは、こういうことを考えたことはありますか?例えば、醤油を販売していて、2本買えば安くなる。でも、使う量は2倍に増えないですよね?」

三好さん:「そんなに使いませんね」

杉さん:「そうでしょう。うちの祖母は昨年101歳で亡くなる前、寝たきりでお粥を食べていました。普通はここから急激に食欲を取り戻すなんてことはありませんよね。それに対して、うちの13歳の娘は食べ盛りで、これから食品をどんどん消費します。でも、人口としては、どちらも1人として換算されるんです。少子高齢化で人口はゆるやかに減っていますが、消費する食糧、つまり胃袋換算すると激減しているのではないでしょうか。だから、これからは胃袋の奪い合いになると予想しているんです。“フードロス”という言葉も、急に出てきたと思いませんか?」

三好さん:「確かに。ここ数年ですよね」

杉さん:「コンビニでも半額商品が並んでいたり、いくら以上買ったらジュースを差し上げますみたいな。“もっと食べなさい”という世界観があるような気がするんです。
スーパーは商品を買ってもらうために安く売ろうと考えるでしょう。それに対して、メーカー側はたくさん仕入れてもらえば単価を安くすると持ちかけます。でも、安い価格で2本まとめて醤油を売ったとしても、お客様の消費量は倍にはならないんです。これって未来の利益を先にもらっただけなんですよね」

三好さん:「胃袋の取り合い合戦で、単価を安くすることが目的化している。オーバーサプライが発生しているんですね」

杉さん:「私たちスーパーは、その矛盾から逃れる必要があると思います。とは言っても、お客様が減ったからテナントを閉めるなんてことはできない。従業員の雇用も確保しなければならないんです」

杉さん:「例えば、うちが人口増加中の1980年代の八百屋とすると、野菜がものすごく売れるからとても忙しい。そんな時、お客様からカットキャベツのリクエストがあったとする。工場に委託してカットキャベツを大量に仕入れてもバンバン売れるわけですよ。でも、今のような胃袋の取り合い時代は、お客様も減りますよね。キャベツは余るし暇な時間も増えたのに、昔のまま工場からカットキャベツを仕入れる。それっておかしいと思いません?工場って24時間水と電気を使ってキャベツをカットしてガソリンを使って運ぶんですよ。その工場で働く外部の人のお給料を、うちが支払っていることになる。スーパーはそこに気づかないといけないのではないでしょうか。2ラインは、その気付いていない時代の名残でもあると思います。今は、従業員たちと一緒に面白い動きをするべきなんです」

●欲しいモノを集めるのがスーパーの役割

三好さん:「なるほど。胃袋の取り合いにならないためにも、どんな取り組みをされているのでしょうか?」

杉さん:「僕らは、お客様の動きを計画購買と非計画購買に分けています。計画購買は、何を買うか決めて家を出ること。非計画購買は何も考えずにとりあえずスーパーに行くこと。後者はありがたい存在で、チラシを入れなくても来てくださいます。そういう人が8割で、残りの2割をどう振り向かせるか。僕らはいつも頭を悩ませています。
それには、お店が置きたいものを用意していてもダメなんですよ。お客様が欲しいモノでないと。スーパーの本質は、お客様の代理としてモノを集めることで、メーカーから安く仕入れた商品を並べる場所ではないんです。田中さんや佐藤さんや鈴木さんが欲しがるもの、もしくは“これ食べたことないでしょう?めちゃめちゃ美味しいですよ“というモノを置いておく。そういう業種でありたいと思っているんです」

三好さん:「でも、お客様のニーズはどうやって得られるんですか?」

杉さん:「ダイキョーバリューの場合は、毎日の積み重ねです。仕入れるお金も労働も、言ってみればうちのものですよね。そこからお客様が欲しいだろうと思うモノを買ってきて並べる。売れない時は別の商品に替える。その繰り返し。でも、これが最高なんですよ。お客様に喜んでもらえるから。その上で利益も手に入る。こうした道徳的な要素と経済がくっついてスーパーは成り立っているのではないでしょうか」

杉さん:「仕入れるモノについてもそうです。例えば野菜や果物は糖度や味だけではない。どれだけ真剣に育てているか、そういう作り手の思いをお客様に伝えたいんです。そんな商品の方が食べてみたくなるでしょう。その感覚がとても大事だと思って」

三好さん:「今までのお話にいろいろな要素が詰まっているなと、ドキドキしながら聞いていました。“消費者”みたいなぼんやりとした言葉ではなく、お客様の顔を常に思い浮かべながら仕入れをしているんだなって感じるんですよね」


杉さん:「そうであればいいなと思います。もちろん、全社員が同じ気持ちとは言い切れません。でも、言われた仕事をただこなす毎日なんてもったいないですから。
弥永店にネパール人のコイララ君と言う社員がいるのですが、ある時“お客様に焼きたてのナンを食べて欲しいからタンドリー釜を買っていいでしょうか?”って言うんですよ。スタッフがやりたいことだからOK出したんですよ。そうしたら大人気で、あっという間に釜の代金の元も取れたんです。
これは美味しいからお客様のために入れたいんですって、そんな提案がどんどん実現できるスーパーにしたいんですよ」

●スタッフにはワクワクしながら働いて欲しい

三好さん:「ダイキョーバリューですごく驚いたのが、スタッフさんとお客さんとの距離感が異常に近いんですよね。お客さんとお店の関係性ができている。あと、スタッフさんのキャラクターが濃い。皆さんが楽しみながら仕事をしているのはもちろん、ちゃんとお薦めできるモノを届けている自信の表れだと思うんですよね。でも、杉さんは経営者としてどうやってスタッフの皆さんを同じ方向に向けているんでしょうか?」

杉さん:「うーん、“いい加減”になることじゃないでしょうか(笑)。まずは経営者がワクワクする仕事にしたいと考えるでしょう。それに賛同してもらえる人に主導権を預けちゃうと。そこで僕が口を出したらモチベーションが下がっちゃうから、“俺について来い”じゃなくて、“ここはまかせた”って。実際に、今日会場に専務と広報部長が来てくれていますが、僕が指示しなくても何をやるべきか分かってくれるし、この2人がいないとお店は回らないんですよ」

笑顔の先には、専務で弥永店長の浦田さんと広報担当の国分さん。杉さんと志を同じくする管理職の皆さんからは、常にさまざまな意見が飛び出すとか。新スイーツ“はぎトッツォ”も雑談から生まれたそう。

杉さん:「でも、楽しいことばかりではなくて、苦しいこともあるし、競合店が来たらかっこいいこと言ってても潰れることもある。経営ってそんなモノだと思います。安いから人が来るわけではないし、去年売れたものが今年も売れるとは限らない。何が正しいか分からないなら、やってみるしかないんです」

三好さん:「新しいことにチャレンジする気持ちとそれが許される状況を作っていらっしゃるんですね。例えば、今年はどんな取り組みをされたんですか?」


●全てのチャレンジは“お客様の喜ぶ顔”のために

熱捨Instagramより


杉さん:「お客様を呼ぶために、“まだ食べたことがないモノを教えてあげる”というやり方もあると思うんですね。そこで、夏に“ドルチェかき氷 熱捨(ねつすて)”を1杯1200円で出したんですよ。うちで売っているフルーツで作ったソースがたっぷりかかっているかき氷で、そんなの絶対おいしいでしょう!」

三好さん:「杉さん、めちゃくちゃワクワクしてますね(笑)」

杉さん:「佐賀や山口の方もわざわざ来てくれて。かき氷って、東京では冬でも行列ができるそうですよ。こちらでは知られていないだけなんですね。それなら、うちで作ってみてはどうかと。5〜10月まで販売しましたが、これをきっかけにダイキョーバリューを知ってくれた人も多かったんですよ」

三好さん:「でも、店舗を構えるなら設備投資もかかったのでは?」

杉さん:「ドルチェかき氷はね、利益を出すために始めたわけではないんです。僕らは、チラシに使う広告宣伝費用をこのかき氷につぎ込んだようなものです」


三好さん:「これは驚きです!広告って、人に広めるために出すじゃないですか。でも、杉さん的には、その前においしいモノを届けたいと言う想いがある。たとえ広告のためだとしても、やっぱりお客様の喜びに帰着するんですね。そのブレなさはすごい」

杉さん:「これがスーパーの役割ではないのでしょうか。喜ぶ顔を見ることができて、お金ももらえる。そんな商売は幸せ以外の何ものでもないです。皆さんもスーパーやればいいのに。きっと楽しいですよ」

三好さん:「その思いって、まさに“商いの原点”ですよね。お客様のためにどれだけ愚直にやり通せるかというところに、これからのまちづくりへのヒントも見えたような気がします」

杉さんと三好さんのトークの後、質疑応答も大盛り上がり。終了時間を若干オーバーしましたが会場の誰ひとりとして疲れた様子は無く、むしろワクワク感に満ちた表情のままお開きを迎えました。スーパーの経営に留まらず、全ての仕事に通じるお話は、私たちの胸に感動の火を灯してくれたようですね。

ちなみに、ダイキョーバリュー弥永店では、ドルチェかき氷に続き12月1日から「はぎトッツォ専門店 おこめのおめかし」がデビューしたそうですよ。
生クリームをたっぷりサンドした、マリトッツォならぬ“はぎトッツォ”が看板商品で、「あんこ」や「きなこ」など6種類ほどが並んでいます。季節ごとの限定メニューも続々登場予定なんですって!
店舗プロデュースやデザインでクリエイターと組んだだけあって、店構えやキャラクターもキュートです。見て楽しい、食べておいしい新スイーツは、きっとあなたの笑顔を引き出してくれるはず。杉さんの次なる挑戦をぜひ体感してみては?


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