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(7)八女福島仏壇/仏壇とは家の中にある小さなお寺

2021年09月24日 11:00 by 深江久美子

福岡県内には陶磁器、織物、人形など、さまざまな伝統的工芸品があり、その内、7品目が国が指定する経済産業大臣指定伝統的工芸品。その7つの伝統的工芸品にスポットを当て、天神サイトでご紹介してきました。7回目の最後を飾るのは八女福島仏壇です。

 

核家族化が進み仏壇がない家庭も増えてきましたが、日本人にとっては身近な存在である仏壇。古くより信仰心が強いせいか、八女地方のメインストリートでは仏壇屋が目立ちます。仏壇の歴史と伝統について、(有)木佐木佛壇店の代表取締役 木佐木秀一さんに話を伺いました。

●福岡の伝統工芸品を手掛ける職人7名にインタビュー
https://tenjinsite.jp/feature/kogei/


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安政年間に初代が弟子入りし、仏壇製造をはじめたという「木佐木佛壇店」。代々受け継がれ木佐木さんは6代目となりました。社会経験を積むために大学卒業後、仏壇の産地でもある名古屋の仏具問屋で2年間勉強し八女に戻ります。職人やメーカーの仕事を知ることができ視野が広がったと語ってくれました。

 

●1人の職人の夢からはじまった仏壇
先に述べたように八女は信仰心が強く、寺院が多いエリア。文政4年(1821年)に1人の指物大工が荘厳華麗な仏閣の夢をみて、同業者の2人に協力を求めて仏壇作りを思い立ったといいます。当時、新しいジャンルだった仏壇は3人のチャレンジから今に至ります。それまでの職人はタンスや箱物、特殊な例では箱雛などを作っていたそうです。「昔から八女は節句もの、仏壇など冠婚葬祭に関わる産業が多かったのでは?」と話してくれました。


●従事する人数が最も多い仏壇
八女福島仏壇の製造工程は大まかに分けると8つになります。全工程数は80にもなり、ほとんどが手作業によって伝統技法が継承されています。依頼を受けた小売店より木地職人に仕様(大きさ、寸法)が伝えられ、彫刻・宮殿の専門の職人がパーツを担当。そして、漆塗や金箔を施し組み立てていきます。そのため、パーツは解体できメンテナンスも可能です。依頼を受ける小売店のセンスで仏壇は出来上がるので、さながらプロデューサーということになります。

 

●漆器は英語でJapan
8つの工程のうち、木佐木さんが担当するのは漆塗と金箔押し。「漆は生き物だから」と木佐木さん。既存の塗料は劣化していきますが、9000年の歴史がある漆は紫外線に当てなければ、かなりの長い期間良好な状態を保つそうです。とりわけ西洋での評価が高く、漆器のことを英語で“Japan”と呼ぶほど。漆こそ日本を代表する伝統工芸なのです。
そんな漆は機嫌屋。気温や湿度にも左右されるほど塗り方が難しいといいます。「完璧に塗れるようになるには一生かかる。一生かかってもできないかな?」と木佐木さん。

 

●苦労を厭わないのはお客さんの笑顔
埃がないように丁寧に仕上げて乾燥。しかし途中で雨が降り、翌日見ると湿気で縮みが出てしまうなんてこともしばしば。やり直しになるんだそう。そんな扱いが難しい漆ですが、メンテナンスした仏壇をお客さんに「これはうちのですか?見違えました。」とか、新しく購入したお客さんに「あなたの店で買って良かった」と感謝される時がとても嬉しいと語る木佐木さん。漆と日々奮闘しながら付き合っていると教えてくれました。

 

●職人の技と、心で伝統を支える
日本を代表する漆ですが、流通も減り職人も数が少ないのも事実。九州で伝統的工芸品の仏壇を作れるのは八女と川辺町(鹿児島)の2ヵ所だけなんだそう。今では漆にそっくりの塗料 カシューを使った仏壇が普及しており、漆を使った仏壇の伝統を支えていかなくてはいけません。
「携わってくれる人がいないとダメ。まずは先祖を敬う。手を合わせる。他人に感謝する。そんなメンタル面が薄れてきているのかな?興味を持ったり、考えてもらう機会がないと伝統工芸は安価なモノにとって代わるのかもしれない。一緒くたに仏壇といっても漆というのがあって代用品があることや、国内や海外で作られたものがあるというのを知って欲しい。そのうえで伝統的工芸品の価値を見出だして欲しい。」と木佐木さんは懸念を抱いています。

 

●仏壇のオーダーメイド
蒔絵を使ったオリジナル仏壇の取り扱いがあるのが「木佐木佛壇店」の特徴です。木佐木さんの姉・大坪さんが蒔絵職人をしており、お重や棗(なつめ)などにも繊細な蒔絵を施します。お客さんと一緒に図柄を考案することもあり、過去には筑後川の近くで育った人から「風景を残しておきたい」と筑後川と松のオーダーがあったことも。お客さんの想いに寄り添い、1つしか存在しない仏壇をプロデュースするのです。
仏壇にトレンドはありませんがルールを設けて範囲内でオーダーに応えることも。幅が狭い仏間には扉をスライド式にしたり、控えめなデザインを好む人には金箔をナシにしたり……。伝統と厳かさを失わないように提案することもあるそうです。

 

●宗派で○○が違う?仏壇トリビア
2階には仏壇が並ぶ展示室があり、各パーツや組み立てる工程を垣間見ることができます。驚いたのが東本願寺と西本願寺の仏壇。仏壇の中には宗派に応じた本山の宮殿がスケールダウンして設けられているんだとか。ご本尊を拝むのは共通していますが、宮殿の柱が10本だと東本願寺、8本だと西本願寺となります。ちなみに、ほかの宗派は特にこだわりはないそうです。

 

●仕事のスケジュールを教えてください
早寝早起きを心掛けています。メダカに餌をあげて、ネコに挨拶をして、神棚に手を合わせます。準備をして、仕事は9時から18時まで働きます。残業したくないです(笑)。

●趣味はなんですか?
お寺巡り、仏像拝観。御朱印集めです。

 

これまでご紹介した伝統的工芸品の中でも、マンパワーもコストも1番かかる八女福島仏壇。仏壇を良く見てみると巻き障子になって扉が2重構造になっているんです。それは、お寺と同じ造りで本堂と内陣に至るまで表現しているといいます。いわば、仏壇とは小さなお寺。京都に行かずして自宅で京都のお寺を拝めるということ。「仏壇とはパワースポットで、あなたの一族を守ってくれるもの」という木佐木さんの言葉から、仏壇の役割と目的に得心が行きました。先祖を敬い、手を合わすことも、伝統文化の未来を紡ぐ1つの方法なのかもしれません。
 

【(有)木佐木佛壇店】
●住所:八女市蒲原1360-5
●電話番号:0943-24-3671



 

 

取材・文:深江久美子
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