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(5)久留米絣/日常によりそう絣の温もり
2021年09月17日 11:00
200年前、12歳の少女「井上伝」が創始した技法により生まれた久留米絣。200年以上もの間福岡県筑後地方一帯で織られ、その技術をつないできました。伊予絣・備後絣とともに日本三大絣の一つに数えられる久留米絣の魅力について、織元の「丸亀絣織物」5代目、丸山重俊さんにお話しを伺いました。
●福岡の伝統工芸品を手掛ける職人7名にインタビュー
https://tenjinsite.jp/feature/kogei/
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●久留米絣の特徴と魅力
久留米絣の特徴は表裏のないことだと丸山さんは言います。「糸のうちに染めて織り上げる久留米絣は裏表もなく、洗っても柄が薄くなることも無い。そして使っていくうちに風合いが出て、長く使って経年変化を楽しむこともできる。」そう語る丸山さんが久留米絣の魅力を知ったのは意外にも家業をきっかけとしてではなく、人との出会いを通じてのことでした。

丸山さんは『丸亀絣織物』の5代目。祖父や父の仕事を幼い頃より近くで見ることはもちろんありましたが、久留米絣のことを特別だと思うことはなく、良さを感じていたわけでも無かったといいます。むしろその工程の大変さなどを知っていた分、「こんな大変な割に儲かるわけでもないし、なぜこんな仕事を続けているのだろう」とさえ子供心に感じていたそうです。しかしものづくりは好きだったことに加え、周りからの「これからの時代は洋装について学んだ方が良い」といった助言から、服飾専門学校に進学することに。そのことをきっかけとして丸山さんの意識は大きく変わることになります。入学後様々な人から久留米絣のことについて聞かれたり、生地の良さについて声をかけられたりするうちに、自分があたりまえに感じていた久留米絣についてもっと知りたいと思うように。歴史を調べ、久留米絣について学ぶ中でその魅力と価値を知った丸山さんは、家業を継ぐ決意をしました。

●時代とともに迎えた転換期
丸山さんが家業に従事し始めた頃、久留米絣に転換期が訪れます。ひとつは染色の技術向上に伴う配色のバリエーションの広がり。そしてもうひとつは、低迷する業況の中で久留米絣を守ろうと始まった『新風久留米絣』という新しい挑戦でした。新風久留米絣は若手の職人を中心としたグループで、新しい商品の開発の他、海外展開を目指していました。
丸山さんはその取り組みのひとつとしてフランス・パリの展示会を行くことに。「初めての海外、目新しいデザイン、文化、何もかも新鮮でした。」帰国後丸山さんはパリでの思い出をインスピレーションに図柄を起し新しい柄の生地を制作。「シャンパン」と名付けられたその柄は技術とデザインの転換期を迎えた久留米絣がつないだ未来を感じさせるものでした。


●制約の中で生まれるデザインと色彩
この10~20年で糸の質、染色の技術の目覚ましい進歩を遂げ、デザイン・質とともに向上している久留米絣ですが、一方で生産過程についてはとてもアナログな面を多く残しています。30を超える工程の多くは手作業であり、作成には2カ月から3カ月を要します。その工程の初めにあるのが、図柄の制作。「久留米絣の生地は38㎝という固定の生地幅に加えて、細い線や曲線はうまく出ないこともあり、どんな柄でも作れるわけではない。その制約をクリアしながら自分がいいと思う色柄をクリアしながら自分がいいと思う色柄を作り出すことにやりがいを感じる」という丸山さん。

生地の幅を広げる試みは過去にあったそうですが、結局はこの38㎝の幅が200年間続いてきたのだといいます。時代に合せて多くの職人の方が様々な試行錯誤を経て今の久留米絣が作られてきた、そんな歴史がこの38㎝の生地には詰まっているのです。

●先人の努力と、未来への想い
久留米絣には歴史上、その価値を落としてしまった過去があります。明治時代、増産体制により量産された久留米絣の質が低下し、粗悪な品が出回ったことにより一時はその信頼を失いました。その後問屋や織元など、久留米絣に関わる人々皆の努力により品質を取り戻し、息を吹き返していきます。しかし戦後に和装から洋装へと変化する流れは再び久留米絣を衰退させ、苦境へと立たせました。久留米絣の継承を困難にさせるのは時代の流れだけではありません。30を超える工程を経て織られる久留米絣は技術的にも難解な上、織機は100年前のトヨタ織機を使うため、部品の交換もままなりません。それでも200年という歴史をつないでこられたのは、「絣を作る人々の知恵、努力、探求心そのもの。」と丸山さんは語ります。「かつて1000軒あった織元は14にまで減少した。これからはその14がそれぞれ、量を作れるところ、発信の力をもつところ、といった特色を発展していくことが大切。自分はお客さんに寄り添う工場となり、久留米絣の価値を高めていく努力をしたい。」と久留米絣の未来を見据えていました。

日々久留米絣を広める活動に従事している丸山さんに、1日の過ごし方やプライベートについてお尋ねしました。
●1日のスケジュールを教えてください。
大きく分けて3つのタイプがあります。ひとつは催事やポップアップイベントで出張に出ている日。約年間の半分がそうです。残りは1/4が東京の店舗、1/4が福岡の工場です。
出張もしくは東京にいるときは販売や打ち合わせをしています。福岡にいるときは事務仕事に加えて、天気の良い日は干し上げの作業をしたりと様々です。


●近隣におすすめのお店などはありますか?
うどんの桐乃家(きりのや)です。小さいころから行っていた、気軽に行けるお店です。
●愛用のアイテムは?
出張でホテルで過ごすことも多いので、Apple TVが欠かせません。
短い時間も仕事から離れて映像の世界に入ることができるのが良いです。
●プライベートはどのように過ごしていますか?
ほぼ仕事をしているので休みは無いですが、長期の休みが取れたら離島に行きたいですね。

実は7年前に工場と自宅を火災で失った丸山さん。もう廃業するしかないという父を励ましたい一心で、「俺はまだやりたいと思っているよ」と伝えたといいます。
その後廃業した織元の方から機械を譲ってもらうなど、いろいろな運や努力が重なって再び久留米絣を作ることができるようになりました。
今は年の大半を福岡から離れて暮らす丸山さんですが、すべては久留米絣を一人でも多くの方に知ってもらいたいという思いから。そんな情熱があるからこそ、伝統はつながっていくのだと感じさせてくれました。
【丸亀絣織物】
●住所:福岡県八女郡広川町大字日吉341
●電話番号:0943-32-0048
●HP:https://re-marugame.net/
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