
アート | ひと
(4)博多人形/伝統に思いを馳せ、時代のニーズを反映
2021年09月15日 11:00 by 深江久美子
福岡の伝統工芸品として知られる博多人形。
今では博多地区外でも制作することが増えてきたといいます。今回は大野城市のとある住宅街で人形作りをしている博多人形師・光石 貴さんを訪ねました。代々続く人形師家系ではなく、一般的な普通のサラリーマン家庭で育ったといいます。博多人形師育成塾で基本を学び、昨年は博多人形伝統工芸士に認定されたという光石さんに博多人形の魅力や思いについて伺いました。
●福岡の伝統工芸品を手掛ける職人7名にインタビュー
https://tenjinsite.jp/feature/kogei/
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●博多人形師への1歩
小さな頃は漫画家になるのが夢だったと語る光石さんは、九州産業大学の芸術学部デザイン科に進学し、主に平面のタイポグラフィや広告デザインなどを学びました。普通のサラリーマンになる気は毛頭なく、漠然と将来は何かを描く職業に就きたいと考えていたそうです。それまでは博多人形についての知識もほぼなく、大学卒業後に博多人形商工業協同組合の主催で行われた後継者育成研修を受講。それが博多人形師としての第1歩を踏み出すきっかけとなったそうです。

●博多人形に魅せられたワケ
川端町にある「松月堂」で無形文化財保持者である宗田源造さんによる2つの作品に魅せられたといいます。それは歌舞伎ものの“娘道成寺”と厄除けの“鍾馗(しょうき)様”。一人の作家が全く様相が違う作品を生み出していることに衝撃を受けたそうです。そんな宗田源造さんに師事し、5年間修行。白彫会と博多人形商工業協同組合に加入し独立しました。

●全工程を1人で手掛けられる“博多人形”
博多人形の工程は、簡単にいうと粘土をひねって石膏で原型を作り、素焼きして彩色。全工程をひとりで造り上げることができるのが魅力だと挙げてくれました。分業制が多い工芸品の中で、一人で作業できるは珍しいとのこと。
光石さんは簡単なイラストを描いて、アイデアを詰め込んで、粘土をひねり形成しながら変化を加えていきます。人の手を入れず、自分の手ですべて完成させることに「自分の意思反映ができるのがいいですね」と話してくれました。

●伝統におけるニューノーマル
明治期の人形師は土着的な作品を作っていましたが、途中で彫刻家に入ってもらい立体造形を一から勉強したといいます。先人たちが天然顔料だけでなく有用無害な化学塗料を試行錯誤し、今の時代にあうものを造り出してくれたんだそう。
師匠から受け継いだモノのがあるので、博多人形師でいる限りは古いものを大事にしつつ新しものを創造していきたい。伝統を守りつつ、今の時代に沿わせていくことが大事だと光石さんは考ています。

●原型造りは表裏一体?
博多人形師は弟子時代に全工程を学ぶそうで、どの工程が楽しいかを聞いてみると「想像したものを平面から立体に起こす原型造りが最も楽しいが、苦しくもある」との答えが。思いついたテーマからアイデアを捻出するのは難儀で、喜びと表裏一体だといいます。白彫会に所属する光石さんは10月に福岡三越で開催される新作展で展示する予定があるそう。毎年8月、9月になると準備を始めなくてはならず、まさに今アイデア構想中とのことでした。

提供:福岡市
●白彫会が制作する筥崎宮はじき
“厄をはじく”ということで1年間家内安全に過ごせるようにと誕生した“放生会はじき”。放生会にあわせ白彫会の会員が制作してきましたが、徹夜組が現れるなど人気が過熱し “筥崎宮はじき”と名前を変え、年中を通して社務所で販売されるようになりました。
今では筥崎宮の年間行事をモチーフに25個のおはじきとなっています。“筥崎宮はじき”のデザインは5年間変わっていないそうですが、今もコンスタントに売上があるそう。「県外の人たちにも広まっているのかな?」と光石さん。

●博多人形伝統工芸士としての活動
“伝統工芸士”とは経済産業大臣が指定した伝統的工芸品において、高度な技術を持ち、後世の育成、産業・地域の振興を担っていく人のこと。いわば、伝統的工芸品技術のスペシャリストです。昨年、光石さんは博多人形伝統工芸士に認定され、小学生を対象にした絵付け体験や高齢者施設でのワークショップを通して、博多人形の魅力を伝える普及活動を行っているといいます。
ほかの工芸士の方々と交流することもあるそうで、「皆さん高い志で活動している人たちばかりで、先人が紡いできたものを自分の中で膨らませ後世に伝えようとしている」と話してくれました。人形師としてはもちろん、伝統工芸士として工芸品を支える役割の一端も担っています。

●プライベートで影響を受けているモノは?
映画やテレビ、近所の散歩などあらゆるものが刺激になるし、熟成さえすれば立派なアイデアになります。例えば、ミュージカル『キャッツ』の原作者 T・S・エリオットの詩を読みマジシャン猫を作ったり、司馬遼太郎や浅田次郎の小説、映画に出ている女優の衣装やポーズを和服にしてみようと考えるという。ドキュメンタリー、甥っ子のゲームなどあらゆるものにアンテナを張りヒントを得ているそうです。

●作業環境を教えてください
人形師さんによって作業環境も様々で1日中有線がかかっていたり、NHKで夏場は甲子園が放送されている方もいるそう。光石さんは昼間は情報収集という観点からラジオを聞くことが多いと話します。無音な深夜に紫煙をくゆらせながら、描き貯めたイラストからネタを膨らませて新しいモノを創作するそうです。

●光石さんのこだわりルーティン
最後に目入れ、眉描き、紅を引く。面相をするときは新品の筆をおろすようにしているそうです。数百本ある絵筆は作品によって1軍と2軍と使い分けており、絵筆の下克上が繰り広げられるといいます。

●オススメの近くの飲食店を教えてください
自前の弁当を持って行くのであまり外食はしないんですが、春日市下白水にある昭和58年に創業した「ラーメンやまもと」です。ラーメンとチャーハンがセットになったのは青春の味です(笑)。
【ラーメンやまもと】
●住所:福岡県春日市下白水南1丁目8
●電話:092-573-8594

●愛用グッズを教えてください
胡坐をかいて作業をするので、人形師はヘルニアなど腰痛持ちが多いんです。腰痛予防にトゥルースリーパーを使っています。だいぶ助かっています(笑)。博多人形師の方々にに腱鞘炎、眼精疲労、腰痛はつきものだそう。

●プライベートの過ごし方を教えてください
近くに住んでいている甥っ子たちが遊びに来てくれます。その時は子どもたちを連れて外出します。今は巣ごもりではないけど、家でNetflixなどを見ています。最近印象に残ってるのはウィル・スミスが主演した「素晴らしきかな人生」です。「ボヘミアンラプソディー」なども観ましたよ。

母方は豆腐屋を営み、父方の実家は左官職人だったという光石さん。ご兄弟も映像制作の職業についているそう。職人気質な工芸の世界に身を置ていますが、取材で受けた印象は良い意味でフラット。ジャンル問わず良いものは全て吸収しようという柔軟な姿勢は、これからも伝統を重んじつつも新鮮な博多人形で誰かを幸せにしてくれそうです。
【光石博多人形工房】
●住所:大野城市月の浦3-19-10
●電話番号:090-9408-4849
取材・文:深江久美子
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