アート | ひと

(2)博多織/伝統の継承と、新しい挑戦

2021年09月08日 11:00

780年の歴史を持つ博多織。中国から博多の商人が持ち帰った織の技法をルーツに、日本三大帯地産地の一つとして愛されつづけている伝統的工芸品です。
今回は、昭和31年に創業、現在筑前町にて博多織の生産をしている「原田織物」の2代目・原田昌行さんにインタビュー。
福岡市大名に生まれ、先代である父の背中を見て育ち、大学卒業後に家業を継いだ原田さん。博多織とともに人生を歩んでこられた原田さんに、博多織の魅力を伺いました。

●福岡の伝統工芸品を手掛ける職人7名にインタビュー
https://tenjinsite.jp/feature/kogei/


-----------------------------------


●博多織の歴史を作った3人組
博多織の歴史を語る上で欠かせないのが、博多の商人・満田彌三右衛門(みつた・やざえもん)と承天寺・東福寺開山の禅僧、圓爾辯圓(えんに・べんえん)、そして中国の商人、謝太郎國明(しゃたろうこくめい)の存在です。
満田彌三右衛門が宋から持ち帰った織物の技術を発展させ生まれた博多織。その独特なデザインは仏教との関連性が強く、仏具である独鈷(どっこ)と華皿をモチーフとした柄は圓爾辯圓の存在が大きかったと原田さんは言います。
「出会い」が産んだ博多織は歴史の中でさらに発展を遂げ、厚地のしっかりとした帯は締めてゆるまない、締め味の良い帯として江戸時代には黒田藩より江戸幕府への献上品として上納されていました。

 

●博多織の特徴「献上柄」
博多織を代表する柄である、献上柄。
魔除け、厄除けの願いが込められた仏具のモチーフに、親子の情愛を表す縞のモチーフで構成されていて、縁を結ぶ等の意味が込められています。
儒教の教えを元に、仁・礼・信・徳・知を表す5色の帯が織られ、徳川幕府に献上されていたことに由来し「献上柄」と呼ばれるようになりました。
武士道にも通ずる意味合いを持ち、そして刀を差すのにも適した実用性を持つ献上博多織は江戸で人気を博し、その後明治以降には一般帯として全国へと広まりました。

 

●時代の変化とともに訪れた転換期
原田さんが家業を継いで10年が経ったころ、世の中の流れが大きく変わります。男女雇用機会均等法が施行され、自動車の普及とともに着物の需要は減少へと向かいました。
「このままではいけない、帯だけではなく生活用品に転換が必要だ。」そんな危機感を博多織生産者全体が持ち始め、時代にマッチしたものを作る試みがスタートしました。「はじめはバッグや小物生活用品等を作りました。しかしこれが難しい。」バッグは作れても、販売するとなるとデザイン面での改善が必要だと感じた原田さん。
博多織工業組合はデザイナーを起用し、「HAKATA JAPAN」のプロジェクトをスタート。
2000年にはニューヨークの見本市に参加し、世界へ向けて博多織のアピールも行いました。こういった活動をきかっけに、各メーカーが新しい取り組みを行うようになったと原田さんは言います。

 

●形を変えても変わらない博多織の価値
帯だけではなく、ネクタイや財布、ポーチ、ブックカバーなど、博多織を使った製品が多く生まれています。縦糸で柄を作ることにより丈夫な生地となる博多織。生地の良さを活かして作られた製品は何年経ってもくたびれることなく使い続けることができます。
一方で新しい製品を生む大変さもあると原田さんは語ります。
「和装の帯を作ることと、現代生活用品の開発の取り組みは全く異なった世界。安全性・素材の研究をはじめ、建築法や消防法など多くの制約の中で新しいものを生み出していかなくてはいけません。」そんな原田さんをはじめとした多くの方の努力により博多織は形を変えてその価値と伝統をつなぎ続けています。


●将来の展望と博多織の未来
原田さんに、今後の展望や希望について伺いました。
「まだまだ道半ば。同業だけではなく、異業種とのコラボレーションが必要となります。デザイナーや専門家と共に取り組んで、新しい商品の開発をしたいと思っています。」
そしてその一方で、本業である帯地の生産についての想いも。
「ハレの着物だけではなく、普段の着物という着方も増えてきています。博多織は普段使いにも適した生地。時代に合った帯づくりをしていきたいです。」
両輪で伝統をつなげていく、それこそが博多織の未来なのかもしれません。

 

●1日のスケジュールを教えてください。
朝は6:30に起床、23:00まで仕事をしていることも。

 

●近隣におすすめのお店などはありますか?
昨年リニューアルオープンしたばかりの道の駅「みなみの里」がおすすめです。
地のものを使った食事が楽しめるほか、地元のお野菜などを購入することができます。


●プライベートの過ごし方は?
休日は家庭菜園で汗を流しています。
工場の横には原田さんが育てる立派なお野菜たちが実っていました。


}インタビューの終わり、実際に工芸士の方が織っていらっしゃる工房の中を見せていただきました。

「機械式」という言葉だけを聞くとボタンひとつで織物ができるように聞こえますが、実際の様子は人の手、人の目、そして工芸士の方の経験値によって緻密に織られているものでした。シンプルな柄でも1日に3本程度、複雑な柄になると2日で1本の帯が製作されるとのこと。

 


「新しい商品は企画する人間だけでは生まれません。わたしたち企画するものと、織る方のコミュニケーションで出来ているんです。」と語る原田さん。
人と人との出会いで生まれた博多織は、これからも人と人とのつながりにより、新しい伝統をつないでいくことでしょう。
 

【原田織物株式会社】
●住所:福岡県朝倉郡筑前町篠隈 687-3
●電話番号:0946-42-2176


 

関連するトピックスTOPICS

PAGE TOP