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(1)上野焼/利休より伝わる陶器の品格ここにあり

2021年09月03日 10:00 by 深江久美子

福岡県内には陶磁器、織物、人形など、さまざまな伝統工芸品があります。その内、7品目が国が指定する経済産業大臣指定伝統的工芸品に、34品目が福岡県知事指定特産民工芸品に指定されています。10月にはソラリアプラザ1Fゼファで「第45回福岡県伝統的工芸品展」が開催されます。イベント開催を記念し天神サイト独自の職人インタビューを実施。

ここでは福岡が持つ風土、歴史的背景なども絡め、7つの伝統工芸品をご紹介していきます。初回は上野焼。約20の窯元が点在する田川郡福智地区では、小倉藩主だった細川忠興の頃に礎が築かれ、400年の伝統が今もなお引き継がれています。

●福岡の伝統工芸品を手掛ける職人7名にインタビュー
https://tenjinsite.jp/feature/kogei/


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話を伺ったのは、上野焼宗家渡窯の12代目・渡 仁さん。東京造形大学に進学し具象彫刻を専攻し、現代美術にも憧れ、卒業後は東南アジアをまわったという経歴を持ちます。帰国後、家業である陶芸の世界に入り、現代美術とは正反対の制限のある工芸の奥深さの中に、現代美術との共通性があると気づき陶芸の世界に魅せられていったそう。

 

●利休より繋がる上野焼400年
戦国時代に登場した茶道が日本の陶芸を発達させたと考える渡さんは、「日本文化を内包し、四畳半に宇宙を感じるなんて茶道こそが最古の現代美術だ」と話します。

利休七哲の1人であった細川忠興により福智山の麓・上野で開窯したのが上野焼の誕生。殿様の“おたのしみ窯”といわれた菜園場窯跡(小倉)も見つかるなど、当時の大名が焼物作りに直接関りを見せるのは大変珍しいことだったよう。茶湯や文芸にも精通した忠興の審美眼に適うものを職人が競い、格式ある陶器としての礎が築かれました。

 

●町人文化が広めた緑の釉薬
一般的に上野焼でイメージされるのは緑色の釉薬が使われているもの。窯によって使用される釉薬は多種あり、溶け合った色や肌合い、艶などで焼物の表情を決定付けます。もちろん、渡さんも常に研究を重ねデータを集積しているそう。

しかし、この釉薬は町人文化が花開いた文化・文政時代に広まったというから驚き。庶民の暮らしが豊かになり、ユニークにもおかずが増えたのも理由の1つと考えられているそうです。庶民のライフスタイルの変化こそが釉薬の発展に繋がったのかもしれません。


●上野焼には抗菌効果があった?
箱膳が使われていた江戸時代には、頻繁に食器を洗う習慣がなかったといいます。「緑色の釉薬は銅を用いるので抗菌効果があったんじゃないかな」というのが渡さんの仮説ですが、当時の人たちが知る由はありません。でも、この時代に上野焼が広まったことを考えると「上野焼はカビにくいよ」なんて会話があったかもしれないと考えると面白いですよね?実際に最近、韓国の学者による焼物の銅の抗菌効果について論文も発表されているそうです。


●割山椒は上野が発祥!?
料亭や割烹などで良く見かけるこちらの小鉢、割山椒。どこでも見られるデザインなんですが、実は上野発祥のモノだとご存知でしょうか?残念ながら、古美術品の中には「古唐津」と記されていることが多いんだそう。しかし、41mある登り窯で知られる上野の「釜の口窯」付近で、昭和39年に陶片が見つかったこともあり、それが裏付けになっているとのこと。今後の窯の調査が楽しみだと渡さんは語ります。


●隠れキリシタンと上野焼
長崎や天草で有名な隠れキリシタン。忠興の妻であるガラシャがキリシタンで知られるように、実は豊前にも隠れキリシタンが多かったそうです。香春町(かわらまち)にはキリシタン墓があったり、福智町にも聖地だったといわれる久留守池(クルス)という池があります。またキリスト教の祭具が入った壺が発掘されたりもしているそう。

上野焼の歴史にも関係しており、西洋人を模した陶片が見つかったりしているそうです。キリスト教のミサに必要なワインを醸造する甕(かめ)も作られていたかもしれません…。ロマンを感じますね。


●伝統を維持するためにSNSも駆使!
伝統を継承する上野焼も後継者問題は切実です。渡窯も明治中期に休止せざるを得ない時があったそうです。後世のために渡さんはSNSを使って、陶土づくりのコツや要点をYoutubeで配信したり、Instagramで作品を公開しています。また、渡窯では行っていませんが、陶芸体験ができる窯元があり気軽に自分だけの特別な器を創ることができます。気になる人は上野焼協同組合のHPをチェックしてください。

★Youtube:https://www.youtube.com/channel/UCPEzmQkAVyWosqE6CS6MYRg
★Instagram:https://www.instagram.com/jinwws/
★上野焼協同組合のHP:http://www.aganoyaki.or.jp/

 

●プライベートで影響を受けているモノは?
生活に関わる全てです。映画や音楽もそうだし、スポーツの感動から生まれることもあります。野球はテレビ観戦ですが良く見ますよ。福岡ソフトバンクホークスのファンです(笑)。世界的なスポーツの大会でのホークスの選手の活躍を熱~く語る一面も!ホークスの話になると少年のような笑顔が印象的でした。


 

●オススメの飲食店を教えてください
「くずはら」は間違いありません(笑)。開店から半年で予約が取りづらくなりました。ご飯はすべて釜炊きで提供してくれるそうです。

【炭火・鉄板焼 ステーキ&ハンバーグ くずはら】
●住所:福岡県田川郡福智町弁城1617-1
●電話:0947-23-2939
●定休日:火曜・水曜日

 

●いま、欲しいものを教えてください!
(しばらく考えて…)炭酸水メーカーが欲しいです。

 

上野焼の話をするときの眼差しは真剣そのもの。先代たちからの伝統を絶やさぬよう忠実に受け継ぐも、現代的なエッセンスを加え革新的に導こうとしている渡さん。土づくりから、釉薬づくりの原料になる灰も、自分で仕入れ全ての工程を営んでいます。先人に倣い、上野焼に誇りを持つ姿は新風を起こしてくれそうです。

 

【渡窯】
●住所:田川郡福智町上野3065
●電話番号:0947-28-2175
●HP:http://watarigama.com/



 

取材・文:深江久美子
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