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【深夜の恋愛小説】頭の中で彼女に尋ねてみる~「ダークグリーンのセーター」~

2020年09月29日 23:00

天神サイトでは、秋の夜長を気楽に楽しく過ごせるように、ヨーロッパ企画のラジオ番組「こちらヨーロッパ企画福岡支部(LOVE FM)」とコラボレーションして、9月限定で毎晩23時に【深夜の恋愛小説】と題して恋愛ミニ小説を連載。読んでいるほうがちょっと恥ずかしくなるような恋愛ラジオドラマ小説の世界をご堪能ください。



タイトル:「ダークグリーンのセーター」

 

 

喫茶店の決まった席で彼女が編みものをしているのを何度か見かけた。
僕はアイスコーヒーを頼んで仕事をする。

 

僕の仕事は脚本家。
あるテレビドラマの脚本を書いている。

 

 

僕は少しの想像を膨らませる。
彼女の編んでいるものはなんだろうか、誰のものになるのだろうか。

 

 

「それは何を編んでいるんですか?」

 

 

僕は頭の中で彼女に尋ねてみる。
現実でやってしまうと気味悪がられるだけだ。

「セーターを編んでいます」

想像の中の彼女は淀みなく答えてくれた。
ダークグリーンの編まれた糸はセーターになるのか。

 

 

「じゃあ、そのセーターは誰が着るんですか?」

こんな質問をしてしまうということは、喫茶店に通って彼女を見かけるたびに、僕はどうやら彼女のことが気になり始めたのだった。

 

「それは、秘密です」

想像の中でも彼女は答えてくれなかった。

 

 

「きゃあ!」

 

 

彼女の声が店内に響いて僕はハッとした。

 

 

僕の頼んだアイスコーヒーを運ぶうウェイターと、扉から入ってきた男性客とぶつかって、彼女の編んでいたところにアイスコーヒーがこぼれた。

 

ウェイターは彼女に謝って心配している。

 

ホットコーヒーじゃなくてほっとした。
くだらないことを思っている場合じゃない。

 

彼女の編み物にはコーヒーがかかってしまった。

「いやあ、ごめん俺のせいだ」
「しょうがないよ、まあまた編み直せばいいし」
「ごめんね」
「大丈夫。まだ最初の方だったから。でも渡せるのが11月になるかも」

 

 

男は彼女の前に座ってそんなやりとりをした。
そして僕の前にはウェイターがやってきて、すぐにアイスコーヒーを作り直しますのでと言ってカウンターに戻っていった。

 

「やれやれ」

僕はパソコンに向かって脚本の続きに取り掛かった。
そして主人公の男性のト書きに書いていた「ダークグリーンのセーターを着ている」という一行を消した。

 

※今回の作品は9月29日(火)21:00からLOVE FMにてオンエアされた番組「こちらヨーロッパ企画福岡支部」でラジオドラマとして放送されました。radiko タイムフリー機能を使うと、過去1週間以内に放送された番組を後から聴くことのできます。(2020年10月6日まで下記アドレスより視聴可能です)

http://radiko.jp/share/?sid=LOVEFM&t=20200929210000

 

 

おしまい
 



こちらヨーロッパ企画福岡支部(LOVE FM) 
京都を拠点に活動する劇団・ヨーロッパ企画による福岡発オリジナル番組。
【イシダカクテル】は、番組開始2013年の第1シーズンから続く大人の恋愛ラジオドラマ

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