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ひと
【深夜の恋愛小説】夜の街ってとてもロマンチックな時間~「夜の終わりかた」~
2020年09月28日 23:00
天神サイトでは、秋の夜長を気楽に楽しく過ごせるように、ヨーロッパ企画のラジオ番組「こちらヨーロッパ企画福岡支部(LOVE FM)」とコラボレーションして、9月限定で毎晩23時に【深夜の恋愛小説】と題して恋愛ミニ小説を連載。読んでいるほうがちょっと恥ずかしくなるような恋愛ラジオドラマ小説の世界をご堪能ください。
タイトル:「夜の終わりかた」
「ねえ、バーに連れてって」
彼女はぼくにそう言った。
夕方に入ったお店でご飯を食べてお酒を飲んだ。
彼女との初めての食事だった。
外に出るとあたりはすっかり暗くなっていた。
「よく行くバーがあるんだけど、少し歩いてもいい?」
「夜の街を歩くのは好き」
彼女はそう答えて歩き出した。
ヒールを履いていたのが気になったが、
場所を知らないはずの彼女の方がどんどん先を歩く。
「夜の街ってとてもロマンチックな時間だと思わない?」
「夜がロマンチック?」
「だって夜は、見たくないものや汚いものを隠してくれるでしょ」
「たしかにそうだね」
「私の顔のシミやソバカスとか(笑)」
街の灯りが煌めいて、頬を赤くしながら微笑んだ彼女の顔を照らす。
ぼくは少しでも長く夜の中にいたいと思った。
今夜眠ってしまうことなんてもったいない、
いつまでも夜の街を彼女と過ごしていたいと。
そして静かなバーにたどり着く。
店内は薄暗くカウンターにはロウソクの炎が揺らめいている。
シェーカーを振る音、そして注ぎ込まれる音が店内に響く。
僕らの前にカクテルが出される。
小さく乾杯したあとに、カクテル三杯分のおしゃべりをした。
夜を引き延ばすように。
三杯目のカクテルを飲み終えたぼくは、彼女の横顔を見つめた。
「いつもきみを見ていたい。いつもきみを想っていた。
これからは、想うだけじゃなく、きみのそばにいたりさわったりしたいんだ」
彼女は僕の方を向いて頬をさらに赤くした。
「やっと口説いてくれた」
そして僕の肩に身を寄せた。
「残念ね」
「え?」
「こんな素敵な夜に、眠ってしまうなんて」
彼女は続けて話しかけようとするのだったが。
「ねえ、◎△$♪×¥○&%#?!」
「え?」
彼女はぼくの肩に身を寄せたまま語りかけてきた。
寝顔とともに、言葉にならない彼女の言葉が、夜の深さを感じさせる。
人差し指で静かにまわしたロック氷は、飲む前より角が取れ、更に丸美を帯びていた。
「マスター、お会計を」
カードをマスターに渡したとき、少し肩が内側へと入ってしまった。
「あ、ごめんなさい……眠ってしまうなんて」
「ごめん、あまりにも気持ちよさそうに眠っていたから」
彼女にとっては、ほんの数分の出来事。
ぼくにとっては、とても長い夜を感じた出来事。
待たせた時間と、待つ時間。
きっと一緒の時間であり、きっと違う時間。
「そろそろかな?」
「そうね」
「ゆっくりでいいからね」
ぼくは、ぼくの隣にいる彼女と、奥にいるマスターに聞こえるように言葉を発した。
グラスの丸い氷は、さらに小さくなった。
この静かなバーに終わりはなく、始まりの場所ですら記憶が遠のいていく。
「夢じゃなかったよね?」
彼女は少し不安げな様子で、飲み終えたカクテルグラスを見つめた。
「ああ、大丈夫」
「ありがとう」
「ごめんね」
頬を赤くした彼女のサインを、ぼくはしっかりと受け取った。
少し短くなったロウソクは、今宵のふたりの気持ちを見守ってくれた。
炎が静かにぼくらを温かく見送ってくれた。
おしまい
こちらヨーロッパ企画福岡支部(LOVE FM)
京都を拠点に活動する劇団・ヨーロッパ企画による福岡発オリジナル番組。
【イシダカクテル】は、番組開始2013年の第1シーズンから続く大人の恋愛ラジオドラマ
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