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ひと
【深夜の恋愛小説】誕生日をいい日にしよう~「ウォッカマティーニを飲んだあと」~
2020年09月24日 23:00
天神サイトでは、秋の夜長を気楽に楽しく過ごせるように、ヨーロッパ企画のラジオ番組「こちらヨーロッパ企画福岡支部(LOVE FM)」とコラボレーションして、9月限定で毎晩23時に【深夜の恋愛小説】と題して恋愛ミニ小説を連載。読んでいるほうがちょっと恥ずかしくなるような恋愛ラジオドラマ小説の世界をご堪能ください。
タイトル:「ウォッカマティーニを飲んだあと」
「となり座っていい?」
そのショートヘアの女性はいきなりそう言って、ぼくの返事を聞く前にとなりに座った
「この人と同じやつ」
ぼくは2杯目のウォッカマティーニを飲んでいた。
「これけっこう強いよ?」
「いいの。私今日誕生日だから」
説明にはなっていなかったが、おもしろい返答だと思った
「ふふ、とにかく誕生日、おめでとう」
「ありがとう」
「だったらご馳走するよ」
「あら、今日初めていいことがあったわ。ごちそうさま」
「残り数分で、誕生日をいい日にしよう」
もうすぐ24時になろうとしていた。
「ふふふ、いい人ね」
「やっと笑顔になった。うん、誕生日は笑顔の方がいい」
「やさしいのね」
「誕生日の美人には特別ね」
「私が美人?どうやらこの店のウォッカマティーニはアルコール度数が高いようね」
彼女のもとにウォッカマティーニが届いて、ぼくらは小さく乾杯をした。
「聞かないのね?何があったか。25歳の小娘には興味ない?」
「若い女性のゴシップには興味あるよ。でも話したくないことを話す必要はない」
「話したくないけど、聞いてほしい」
「矛盾してるね」
「世の中矛盾だらけでしょ」
「確かに」
「好きなのに別れたいと思った」
「それは矛盾してるね」
「彼に奥さんがいたの」
「それを誕生日に知ったのは、なかなかショックだね」
「最悪よ。何が最悪って、私が愛人だったって分かったのはもちろん最悪だけど、そんな男を好きになったっていう自分が最悪だなって」
「切ないことに、嘘の下手な男より、嘘の上手い男の方が魅力的なんだよ」
「私は子供だったのね」
そう言って彼女はウォッカマティーニを飲み干した。
「3口でウォッカマティーニを飲み干せる女性は十分大人だよ」
「ふふふ。これ美味しいわ。もう一杯もらってもいい?」
「もちろん、この店のウォッカがなくなるまで、今日はごちそうするよ」
「ふふふ、ねえあなたにはパートナーはいるの?」
「2年前に別れたんだ。君に似ていて、とても美人な25歳だった」
「嘘でしょう?」
「そ、嘘」
「もー(笑)」
2杯目のウォッカマティーニを飲みほしたあと、彼女がぼくに語りかけた。
「ねえ、誕生日の私のお願いを一つだけ聞いてくれる」
「いくつでも」
「25秒だけ、あなたの肩を借りてもいい?」
「え…?」
そういうと彼女はぼくの肩に頭をつけて小さく泣いた。
「1、2、3…」
ぼくは25秒を数えるのをやめて、ウォッカマティーニが好きだった昔の彼女のことを思い出していた
おしまい
こちらヨーロッパ企画福岡支部(LOVE FM)
京都を拠点に活動する劇団・ヨーロッパ企画による福岡発オリジナル番組。
【イシダカクテル】は、番組開始2013年の第1シーズンから続く大人の恋愛ラジオドラマ
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