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ひと
【深夜の恋愛小説】元の半分の相手を探し求めてさまよっている~「小さく丸い僕ら」~
2020年09月22日 23:00
天神サイトでは、秋の夜長を気楽に楽しく過ごせるように、ヨーロッパ企画のラジオ番組「こちらヨーロッパ企画福岡支部(LOVE FM)」とコラボレーションして、9月限定で毎晩23時に【深夜の恋愛小説】と題して恋愛ミニ小説を連載。読んでいるほうがちょっと恥ずかしくなるような恋愛ラジオドラマ小説の世界をご堪能ください。
タイトル:「小さく丸い僕ら」
「ナイスショーット!」
彼女の打ったボールは18番ホール、340ヤード、パー4のフェアウェイの空を大きく飛んでいった。
その夜、バーにて
「あーあ、今日も100切れなかったなあ」
「もう時間の問題さ。18番ホールのドライバーは200ヤードは飛んでたよ」
「ドライバーもスライスばっか。なんでまっすぐ飛んでかないんだろ」
そう言って彼女はロックグラスに入った丸い氷を転がして眺めた。
「私のボールはまん丸じゃないのかしら」
グラスに入ったウイスキーをクイっと飲んだ。
僕はときどき、5歳下の彼女が自分よりも何歳も年上なんじゃないだろうか思ってしまう。
「知ってるかい?プラトンの人間球体説」
「人間球体説?」
「遥か昔、男と女は1つの球体だったんだ。でもあまりに仲の良い男女の球体を見た神様はそれを半分に切ってしまったんだ」
「神様って嫉妬深いのね」
「ふふ。それ以来、男と女は半球体になって元の半分の相手を探し求めてさまよっているってわけなんだ」
「じゃあ形やサイズや色が違う半球体同士だと分かれちゃうってこと?」
「ピッタリ一致する半分同士できれいなまん丸であれば、まっすぐ飛んでいけるってことかな」
「そっかあ」
彼女はなおもグラスに入ったまーるい氷を眺めながら、納得したような、してないような顔をしている。
「プラトンさんが言ってるもともと球体で、その半分を探してるってのはなんとなく分かるの」
「うん」
「でも、ぴったり一致する相手を探してるってのは違うと思うなあ」
「どういうこと?」
「ぴったり一致しなくても、一緒にいるうちにまん丸になっていくことってあるんじゃないかなあ」
ウイスキーをロックで飲んでたと思えないくらいしっかりした口調で彼女は言った。
「大きさも形も色も違っても、くっついてるうちに馴染んできて、小さくてもきれいなまん丸になってく方が私はいいなあ」
彼女の言葉にプラトンもウイスキーを飲みながら頷いてるんじゃないだろうか。
「うん、まっすぐ飛ばないのは肩が下がってるからだと思う!明日は打ちっぱなし行こう」
「わかった」
「これからもご指導よろしくお願いします」
プラトンは人間球体説の中でこうも言っている。
愛とは、一つになりたいという願いである、と。
僕は小さく丸くなった自分のグラスの氷を眺めながら、
彼女と一つになりたいと思った。
おしまい
こちらヨーロッパ企画福岡支部(LOVE FM)
京都を拠点に活動する劇団・ヨーロッパ企画による福岡発オリジナル番組。
【イシダカクテル】は、番組開始2013年の第1シーズンから続く大人の恋愛ラジオドラマ
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