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ひと

【深夜の恋愛小説】カクテル一杯分の会話のあとに~「いつもの」~

2020年09月21日 23:00

天神サイトでは、秋の夜長を気楽に楽しく過ごせるように、ヨーロッパ企画のラジオ番組「こちらヨーロッパ企画福岡支部(LOVE FM)」とコラボレーションして、9月限定で毎晩23時に【深夜の恋愛小説】と題して恋愛ミニ小説を連載。読んでいるほうがちょっと恥ずかしくなるような恋愛ラジオドラマ小説の世界をご堪能ください。



タイトル:「いつもの」

バーでは男が座っている。
そこへ女がやってくる。

 

僕はいつものバーのいつもの席に座ってカクテルを飲んでいる。

 

すると彼女がやってきて、僕の隣のいつもの席に座った。
僕はメガネをジャケットの裾で拭かなければならない。

 

きれいな彼女を、よく見たいのだから。

「なに飲んでるの?」
「今日はギムレット」
「いつもの、ね」
「そうだね」
「じゃあ私も同じのを、マスター」

 

いつも彼女は僕の飲んでいるカクテルと同じのを頼む。

 

そして彼女はタバコに火をつけよとライターを取り出す。

ライターの火が付かない音。

ちょうどライターのガスが切れている。

「はい」
「ありがとう」

 

僕は左のポケットからライターを取り出して火を付ける。

彼女はタバコをくわえたまま顔を近づける。

 

女の「フー」っと煙を吐く音。

タバコの煙でまた彼女が見えにくくなってしまった。

 

「ねえ、なに食べいく?」
「お腹は?」
「ペコペコ」
「僕もだ」

「なにを食べたい気分?」
「君は?」
「うーん、イタリアンかな」

「じゃあそうしよう」
「うん」

 

彼女はいつも何を食べるか僕に尋ねてくれる。
自分が食べたいものが決まっているときでも。

 

それから僕らは、今日あった出来事を報告し合う。

 

「新しい仕事が慣れなくて疲れちゃった」
「今日はいつもより花粉が飛んでてつらかったよ」

「タータンチェックのワンピースがかわいかったの、買おうかなあ」
「朝起きたら本に指を挟んだまま寝てたんだ」

 

僕の知らないところで、彼女がどんな時間を過ごしていたのか、それを僕は知りたいし、彼女もそうみたいだ。

 

「じゃあ続きは次のお店で」

 

 

ちょうど二人のカクテルがカラになったとき彼女がそういって立ち上がる。

 

チュッという音。

 

カクテル一杯分の会話のあとにカクテル味のキスをしてバーを出る。

 

 

これが僕らの”いつもの”だ。

 

おしまい
 



こちらヨーロッパ企画福岡支部(LOVE FM) 
京都を拠点に活動する劇団・ヨーロッパ企画による福岡発オリジナル番組。
【イシダカクテル】は、番組開始2013年の第1シーズンから続く大人の恋愛ラジオドラマ

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