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【深夜の恋愛小説】彼の嫌なところを言いながら~「彼の良いところ」~

2020年09月19日 23:00

天神サイトでは、秋の夜長を気楽に楽しく過ごせるように、ヨーロッパ企画のラジオ番組「こちらヨーロッパ企画福岡支部(LOVE FM)」とコラボレーションして、9月限定で毎晩23時に【深夜の恋愛小説】と題して恋愛ミニ小説を連載。読んでいるほうがちょっと恥ずかしくなるような恋愛ラジオドラマ小説の世界をご堪能ください。



タイトル:「彼の良いところ」

 

誰もいないバーのカウンターに彼女は一人座っていた。

 

ドアがゆっくりと開く。

 

入ってきたのはドアの外にクローズと札を掛け終えたマスターだった。

 

いつもならマスターは彼女に優しくこう声を掛ける。

「さあ、今日ももうおしまいだよ。今日1日の嫌なことを全て忘れたなら、あとは家に帰って寝るだけさ」

 

しかしマスターは、今日ばかりは彼女に声を掛けなかった。

 

代わりに彼女の方がマスターに語りかけた。

「ねえマスター、彼の嫌なところいくつあると思う? 」
「さあねえ、だいたい100個くらいかい?」
「足りないわ、もっと天文学的な数字よ!」

 

マスターは少し微笑んで、彼女の前の空になったカクテルグラスを片付けた。

「ねえ、マスターはいつから二人になったの?」
「君がこのグラスを空にした時からじゃないかな」

「私、今日は何杯飲んだ?」
「さあね、それこそ天文学的数字になるんじゃないか?」

 

女はマスターの言葉に少し笑った。

 

「じゃあ、今から彼の嫌なところを言っていくわ」
「うーん、でもそれは天文学的な数あるわけだろ?聞いてたら店を何日か閉めっぱなしにしなきゃならない。じゃあどうだろう、彼の良いところを教えてくれないか?」
「それはまあ、数える程度だしね」
「頼むよ」
「うーん、少し前に私が風邪ひいた時、家にきておかゆを作ってくれた」

 

「2つ目は?」
「私が落ち込んでるときに、じっと黙って話を聞いてくれた」

 

「3つ目は?」
「三つ目は、私のことを……」

 

といったところで、彼女はカウンターに突っ伏して眠ってしまった。

「やれやれ」

 

 

とその時、再びドア開く。

「今夜は終わりなんで…」

 

マスターはすぐに気付いた。男は自分の着ていたジャケットを彼女に掛けた。

 

「飲んでいきますか?」
「いいんですか?」
「ええ、気持ちよさそうに眠ってますから」
「すみません、じゃあ一杯だけ、マスターも」

 

マスターは、男の3つ目の良いところを知った。

 

おしまい
 



こちらヨーロッパ企画福岡支部(LOVE FM) 
京都を拠点に活動する劇団・ヨーロッパ企画による福岡発オリジナル番組。
【イシダカクテル】は、番組開始2013年の第1シーズンから続く大人の恋愛ラジオドラマ

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