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【深夜の恋愛小説】夏になると限定で開店するお店~「夏のバー」~

2020年09月16日 23:00

天神サイトでは、秋の夜長を気楽に楽しく過ごせるように、ヨーロッパ企画のラジオ番組「こちらヨーロッパ企画福岡支部(LOVE FM)」とコラボレーションして、9月限定で毎晩23時に【深夜の恋愛小説】と題して恋愛ミニ小説を連載。読んでいるほうがちょっと恥ずかしくなるような恋愛ラジオドラマ小説の世界をご堪能ください。



タイトル:「夏のバー」

 

夏になると、彼は私のためにプライベートバーを開いてくれる。

 

「あーもしもし、今日は思わぬことで仕事が早く片付いたんだ」
「よかったわね」

「君にとっては?」
「もちろんうれしいわ」

「じゃあ、いまから会える?ご飯でも食べに行こう」
「いま手が離せないの」

「どうして?」
「お鍋の夏野菜カレーが焦げないように見てなきゃいけないから」

「それって、何人分作ったの?」
「一人分かな、明日も食べることを考えると」

「たしかにカレーは2日目が一番うまいからね」
「ええ」

「けど一人で食べるカレーより、一緒に食べるカレーの方がおいしいと思わない?」
「ふふふ」

「行ってもいい?」

「仕方ないわね。じゃあ早く来てね。お腹ペコペコなんだから」

「分かった、大丈夫すぐ行くよ。僕もペコペコだから」

 

 

彼は私の作った夏野菜のカレーを、私がちょうど半分食べたときに食べ終え、もちろんおかわりをして、私が食べ終えるころにちょうど二皿目を食べ終えた。

 

「ごちそうさま。どうするこのあとは?」
「そうねえ、少しお酒が飲みたいかな。うん、夏だしモヒートが飲みたい」

「ふふ、モヒートがおいしいバーを知ってるんだ」
「去年も連れてってくれたところ」

「覚えてる?」
「ええ、覚えてるわ。だってモヒートしか飲めないバーだったから」

「今年もモヒートだけかもね」

 

そうして私たちは彼の家に向かった。

 

 

部屋に着くと彼は部屋を間接照明だけにして、レコードでデニス・ブラウンをかけた。

「じゃあ、なにを飲む?」
「おすすめは?」

「モヒートかな」
「ふふ、モヒートしかないんでしょ?」

「いや、今年はラムコークもあるよ、冷蔵庫にコーラが入ってた」
「ふふふ」

「けどやっぱりおすすめはモヒートかな」
「じゃあ一杯目はモヒートを」

「かしこまりました」

 

彼はバーテンを気取ってそう言うと窓を開けてベランダに出た。

そして両手一杯にミントの葉を持って戻ってきた。

 

「スペアミントがよく育っててね。やっぱりモヒートにはスペアミントが一番いい。ペパーミントよりもほのかに甘くなる。それにラムはバカルディよりハバナクラブだね。ヘミングウェイが愛したモヒートのラムはハバナクラブだった。それに砂糖じゃなくてシロップを使うのがポイントだ。かき混ぜたあとに氷を入れて炭酸水をじゃばじゃばと注ぐ。そして最後に少しだけステアする。これで素人のごたくを並べたモヒートの完成だ」

 

彼はモヒートを作りながら去年と同じことを言っていたけれど、私は初めて聞いたようなフリをしてあげた。

だってせっかくモヒートを作ってもらったんだから。

 

「とってもおいしいわ。あなたのお家で飲むあなたの作ったモヒート」
「よかった」

「けど、少しラムが濃くて、こんなの飲んだらすぐに酔っちゃうかも」
「酔わせるつもりだからね。さあ、次の一杯は?ラムコークも覚えたし、なんだったらダイキリも覚えたんだ。ラムベースのカクテルをね。ちょっとしたバーごっこだよ。バー僕の家、かな」

「ふふふ。そうねえ、でもこのバーではやっぱりモヒートが飲みたいかな」
「オッケー、じゃあおかわりだね」

「ええ、モヒートを、もーひとーつ!」
「ふふふ、たしかにラムを少し入れすぎたみたいだ」
「ふふふ」

 

私は少し酔ってしまったみたいだ。

けど大丈夫。

 

このバー彼の家には、すぐ隣にベッドがあるんだから。

 

おしまい
 



こちらヨーロッパ企画福岡支部(LOVE FM) 
京都を拠点に活動する劇団・ヨーロッパ企画による福岡発オリジナル番組。
【イシダカクテル】は、番組開始2013年の第1シーズンから続く大人の恋愛ラジオドラマ

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