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ひと

【深夜の恋愛小説】1つ年上の校内で一番可愛い女の子と~「初めてのキス」~

2020年09月11日 23:00

天神サイトでは、秋の夜長を気楽に楽しく過ごせるように、ヨーロッパ企画のラジオ番組「こちらヨーロッパ企画福岡支部(LOVE FM)」とコラボレーションして、9月限定で毎晩23時に【深夜の恋愛小説】と題して恋愛ミニ小説を連載。読んでいるほうがちょっと恥ずかしくなるような恋愛ラジオドラマ小説の世界をご堪能ください。



タイトル:「初めてのキス」

 

「ねえ、何飲んでるの?」
「えっと、なんだろう…、桃のジュースです」

 

まだ高校生だった僕は、もちろんカクテルなんて飲めなくて、
てきとーに桃の炭酸の缶ジュースを飲んでいた。

 

僕の高校の体育祭は全学年が白、青、緑、紫という組に分かれる。
そのとき僕は2年の白組で、彼女は3年の白組だった。

 

体育祭が終わったあとに、同じ組の2年と3年の生徒だけで河原に集まって朝まで打ち上げをするのが僕らの高校の伝統だった。

 

50人ほどでバーベキューをしているなか、僕より一つ年上の彼女はいきなり話しかけてきた。

「ねえ、ひと口ちょーだい」
「えっ、あ、はいどうぞ」
「(飲んで)おいしい!私もこれ飲も。はい」

 

彼女は飲み物が並んでいるほうへ行ってしまって、僕の手には彼女がひと口飲んだあとの桃の炭酸のジュースが残った。

そんな経験は、初めてだった。

 

 

ほどなくして、彼女は僕と同じ桃の缶ジュースを持って僕の隣にちょこんと座った。
彼女のセミロングの髪が僕の肩に触った。

「まだ残ってた。乾杯」
「乾杯」

 

乾杯をしたあとは、飲むのが当たり前だ。

 

僕はさっき彼女が僕の缶ジュースをひと口飲んだのと同じように、ひと口、桃のジュースを飲んだ。

さっきまで飲んでいた桃のジュースと全く変わらないはずなのに、僕は味が分からなかった。

 

初めての、間接チューだった。

「ねえ、ごうたくんは彼女はいるの?」
「え、いませんよ」
「ふーん、じゃあ好きな人は?」
「え、いやっ」

 

手に持った缶ジュースを見つめている僕を覗き込むように彼女は僕の顔を見た。
なんだか全て見透かされているような、いたずらっぽくて、そしてとても可愛いかった。

「まあ、いますけど…」
「そっか、ふーん」

そう言って彼女は自分の缶ジュースを飲んだ。

 

もちろん、僕の好きな人は一つ年上の彼女だった。

 

僕は彼女とあまり話したことはなかったが、一方的にはよく知っていた。
校内で一番可愛い女の子と言われていたからだ。

それに僕が一年のとき、僕はバレーボール部でその3年のキャプテンと付き合っていたから。
僕が2年になったとき、大学に行ったキャプテンとは別れたと噂で聞いた。

 

「ねえ、いっしょに写真撮ろうよ」

彼女はカメラを持って手を伸ばし自分の方へ向けて、僕に顔を近づけた。

 

そのあと彼女とふたりでたくさん話をしたはずだけど、あまり覚えていない。

 

その数日後の昼休みに、彼女の友達に呼び出された。
3年生の女子が2年生の教室にくることはあまりなかったからびっくりしたのを覚えている。

そして呼ばれた先は学校の4階のあまり人がこない屋上に行く階段のところで、そこには彼女が待っていた。

 

すぐに友達はいなくなって、二人きりになって、彼女は僕に。

「もう分かってるやろうけど、好きなんで、付き合ってください」

と言った。

 

僕は衝撃的すぎて、けれど、そうなるような気もしていて、

 

「僕も好きです。お願いします」

と、案外冷静に言った。

 

あまりにも全てが上手く行き過ぎていた。
けれどいままで女性と付き合ったことのなかった僕は、どうしていいか、何をしていいのか、女性と付き合うというのはどういうことなのか、まるで分からなかった。

 

付き合えたことがうれしいのかさえ分からなかった。

 

僕が、校内で一番可愛い女の子と付き合うことになった。

 

 

噂はすぐに広まった。友達はみんな「なんでお前なん?」と不思議がった。
もちろん僕だってそう思っていた。

 

部活が終わったあとに一緒に帰るようになった。

そして付き合って3日目の帰り道、河原に座って僕は彼女にキスをした。

「(さみしげに)…じゃあ、帰ろっか」

キスのあと、彼女は僕にそう言った。
なんだか少し寂しげだったのがとても気になった。

 

それから数日間

 

忙しいからとかいろいろ理由をつけられ一緒に帰らなくなった。
なんだか避けられているような感じだった。

 

そして付き合ってたった1週間

僕は彼女に別れを告げられた。

 

「ごめん。付き合って3日でキスする人だと思わなかったから。信用できなくなって…」

 

なにも言えなかった。

 

僕はたしかに付き合って3日しか経っていないのに、キスをした。

 

周りの友達がいろんなことを済ませていくのに焦っていたのかもしれない。
一つ上の、僕からすれば十分大人な彼女に、子供だと思われたくなかったからかもしれない。
ただキスがしたかっただけなのかもしれない。
女の人とキスなんてしたことなかったから。
とにかく僕は、彼女のことを考えもせず、想いもせず、ただキスをしたのだ。

「…ごめんなさい」

 

それで僕の初恋は終わった。

 

タイムマシンができたら、付き合って3日目のあの日に僕はまず行くだろう。

 

 

おしまい
 



こちらヨーロッパ企画福岡支部(LOVE FM) 
京都を拠点に活動する劇団・ヨーロッパ企画による福岡発オリジナル番組。
【イシダカクテル】は、番組開始2013年の第1シーズンから続く大人の恋愛ラジオドラマ

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