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【深夜の恋愛小説】言いかけたあの日の言葉がよみがえる~「コオロギの鳴く声」~

2020年09月09日 23:00

天神サイトでは、秋の夜長を気楽に楽しく過ごせるように、ヨーロッパ企画のラジオ番組「こちらヨーロッパ企画福岡支部(LOVE FM)」とコラボレーションして、9月限定で毎晩23時に【深夜の恋愛小説】と題して恋愛ミニ小説を連載。読んでいるほうがちょっと恥ずかしくなるような恋愛ラジオドラマ小説の世界をご堪能ください。



タイトル:「コオロギの鳴く声」

夏の終わりに、僕は故郷に戻り、同窓会に出た。

 

「久しぶりだね」
「ああ」
「タバコ?」
「うん、少し飲みすぎたし、風に当たりたくて」

 

彼女は、タバコに火をつける。

 

「吸うんだ?」
「意外?」
「そうだね」
「似合わない?」
「少し」
「やめようとは思ってるんだけど」
「ふふふ」

「おかしい?」
「成績優秀でクラスでいつも一番だった君が、なんだか不良になったみたいだ」
「昔のことよ」
「君はいつも一番だった、成績も運動も一番」
「結婚も一番……離婚も一番」

 

どこからか、コオロギの鳴く声が聞こえる。

 

「コオロギ」
「もう、そんな季節だね」

 

「あのときも二人でコオロギの鳴く声を聴いてた」

「え?」

「あなたが貸してくれたビートルズのアルバム」

「ああ、思い出した。アビイロードだ」
「Sun kingの曲が始まる前に、コオロギの鳴く声が入ってるのよね」
「そうそう」

「CDをあなたに返しに行ったとき、夏の終わりの夜で、ちょうどコオロギが鳴いてて」
「君が「Sun kingだ」って言ったんだ」
「あなたはすごく笑った」
「ああ、すごくおかしかった」

 

ビートルズのSun kingのメロディーが脳裏をよぎる。

 

その後のことも、彼女はきっと覚えてるはずだ。

 

10年前のあの日、コオロギが鳴きやんだときに少し不自然な間があって、彼女は僕に「どうしたの?」って聞いてきた。

僕は「いや、なんでもないよ」と言ってCDを受け取って帰った。

 

 

あれから10年が経った。

 

あのときと同じように僕らはコオロギの鳴く声を聴いていた。

 

おしまい
 



こちらヨーロッパ企画福岡支部(LOVE FM) 
京都を拠点に活動する劇団・ヨーロッパ企画による福岡発オリジナル番組。
【イシダカクテル】は、番組開始2013年の第1シーズンから続く大人の恋愛ラジオドラマ

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