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【深夜の恋愛小説】あったかもしれない、もう1つの世界線~「もうひとつの空、ゆっくりと」~

2020年09月05日 23:00

天神サイトでは、秋の夜長を気楽に楽しく過ごせるように、ヨーロッパ企画のラジオ番組「こちらヨーロッパ企画福岡支部(LOVE FM)」とコラボレーションして、9月限定で毎晩23時に【深夜の恋愛小説】と題して恋愛ミニ小説を連載。読んでいるほうがちょっと恥ずかしくなるような恋愛ラジオドラマ小説の世界をご堪能ください。



タイトル:「もうひとつの空、ゆっくりと」

 

「4年に一度じゃなく。。。」
「一生に一度!」
「その通り!」

 

にわかなファンのぼくらは
桜のエンブレムが誇らし気に刺しゅうされたお揃いのジャージを着て
入場ゲートまでの道のりに心を躍らせる。

 

「今年も4年に一度がやってくるなんて、私たちって超ラッキーな世代じゃん」
「だから……」
「一生に一度!」
「その通り!」

 

セミたちは、これから始まるビッグゲームを煽るかのように、元気に鳴いている。

周りを見渡せば、同じジャージを着た人たちがいっぱい。

中には国旗をマントのように羽織る人もいる。

 

「7人制ってさぁ、15人制と、どう違うの?」
「にわかファンの俺に聞く?」
「そうだね。にわかの私が、にわかのアナタに聞いても、きっと、にわかな答えね」
「なんだよ、それ?」
「ふふふ。。。」

 

スポーツ観戦の好きなぼくらは、付き合って1年ほどになる。

 

細かいルールは、ふたりともあまり気にしていない。

 

『ふたりで一緒に楽しむことができる』  
形はないが、それが、ぼくらにとって、大切な宝物。

 

「今日、試合に勝ったらさぁ。。。」
「勝ったら?」
「いや、なんでもない」
「なによ、それ。。。せっかく見に来たんだから勝ってもらわないと!」
「そうだね」

 

この日のチケットが当選したときから、僕は決めていた。
そして、今日、小さな箱に入った「形ある宝物」を、ぼくのポケットに忍ばせていた。

 

 

スタジアムが近づくにつれて大きくなる歓声。
高鳴る鼓動!

 

試合に勝っても負けても この試合で、「一生に一度」のトライを
僕は決めてみせる。

 

さぁ、いざ勝負だ!.......勝負のはずだった。

 

 

 

 

考える間もなく目の前の景色は薄くなり、真っ暗な世界が広がった。

 

雨音で僕は目覚めた。

 

「夢かぁ。。。」

 

枕もとの時計を見た。
2020年7月24日 午前4時7分。

 

昨日から降り続く雨はやむ気配がなく
不気味な雰囲気の雲が空一面を覆う。

 

色気のない薄暗い世界が、カーテンの向こう側に広がり
終わりが見えない朝を迎えようとしていた。

 

僕はベットから立ち上がり、机に置いたままのペットボトルの水を一口飲んだ。
寝言のように彼女が僕につぶやく。

 

「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
「なによ、それ。。。いやな夢でも見たの?」
「ああ、そうだね。もしかしたら、そうだったのかも」

 

 

雨音は、先ほどより少し優しく耳に響くように感じた。

急に晴れることのない空を見上げ、ゆっくりと深呼吸をしてみた。

 

取り残された現実と、僕のいる世界がシンクロを始めている。

 

 

雨がやもうが、やむまいが、今日僕らは婚姻届けを提出する。

 

おしまい
 



こちらヨーロッパ企画福岡支部(LOVE FM) 
京都を拠点に活動する劇団・ヨーロッパ企画による福岡発オリジナル番組。
【イシダカクテル】は、番組開始2013年の第1シーズンから続く大人の恋愛ラジオドラマ

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