天神サイト・ヨーロッパ企画presents

ひと

【深夜の恋愛小説】君のビーフシチューが食べたい~「ビーフシチューの味」~

2020年09月04日 23:00

天神サイトでは、秋の夜長を気楽に楽しく過ごせるように、ヨーロッパ企画のラジオ番組「こちらヨーロッパ企画福岡支部(LOVE FM)」とコラボレーションして、9月限定で毎晩23時に【深夜の恋愛小説】と題して恋愛ミニ小説を連載。読んでいるほうがちょっと恥ずかしくなるような恋愛ラジオドラマ小説の世界をご堪能ください。



タイトル:「ビーフシチューの味」

 

グラスに残ったビールを飲み干し、
フライドポテトをいくつかつまんだ。

「もう帰るの?あなたも私を一人にするつもり」

 

僕の座ったカウンターの少し離れた席から、その女性は話しかけてきた。

突然のことで、つまんだフライドポテトをそのまま口に持っていくことしかできなかった。

三十ばかりのとてもきれいな顔をした女性だった。
ポテトをほおばりながら、口の中に入っているそれがなくなってしまったとき、
どんなふうに口を開けばよいものか僕は考えていた。

するとその女性は続けていった

 

「私、いくつにみえる?」


フライドポテトはまだ口に入っていた。


「27歳」
「うそつきね。男はいつも嘘をつく」
「ごめん、ほんとのことを言うよ。22歳だろ」

そういうと彼女は笑った。

 

「悪い気はしないわ。あなたの待ち人も来なかったのかしら?」
「いや、むしろ僕が待たせているほうなんだ」

 

付き合っているガールフレンドと些細なことでケンカをしてしまい、
ガールフレンドの部屋からこのバーへ非難していたのだった。

 

「女はいつまでも待ってると思ってるのね?」
「そうかもしれない」
「あなたはじゃあこれからその女のところに行くの?」
「わからない」

そういうと僕らはしばらく見つめあった。
口の中のフライドポテトはすっかりなくなっていた。

 

「ビーフシチューは好き?」
「嫌いな男はいないよ。なぜだい?」
「作ったんだけど、あたし一人じゃ食べきるのに一週間はかかるの。食べにこない?」
「悪くないね」

 

結局、僕がビーフシチューを食べたのは、翌日の朝だった。

 

目が覚めると彼女はいなくなっていた。

 

キッチンのテーブルには温められたビーフシチューが置いてあった。
僕はそれを一口食べた。

 

ガールフレンドの作るビーフシチューのほうがうまいと感じた。

 

そのとき携帯が鳴った。ガールフレンドからだった。

 

僕は携帯をそのままズボンのポケットに突っ込んで、
ビーフシチューを残したままにして彼女の部屋をでた。

 

そしてガールフレンドの電話に出た

 

「今日の夜、どうしても君のビーフシチューが食べたいんだけど、行ってもいいかな?」

 

ガールフレンドは"待ってるわ"とだけ言って電話を切った。

 

さっき食べたビーフシチューの味が、口の中にはまだ残っていた

 

おしまい
 



こちらヨーロッパ企画福岡支部(LOVE FM) 
京都を拠点に活動する劇団・ヨーロッパ企画による福岡発オリジナル番組。
【イシダカクテル】は、番組開始2013年の第1シーズンから続く大人の恋愛ラジオドラマ

他の「深夜の恋愛小説」も見る↓↓↓

関連するトピックスTOPICS

PAGE TOP