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【深夜の恋愛小説】仲直りのきっかけはマスターとの賭け~「次の客」~

2020年09月01日 23:00

天神サイトでは、秋の夜長を気楽に楽しく過ごせるように、ヨーロッパ企画のラジオ番組「こちらヨーロッパ企画福岡支部(LOVE FM)」とコラボレーションして、9月限定で毎晩23時に【深夜の恋愛小説】と題して恋愛ミニ小説を連載。読んでいるほうがちょっと恥ずかしくなるような恋愛ラジオドラマ小説の世界をご堪能ください。



タイトル:「次の客」

その夜、僕は一人で、カリフォルニア・メルローのグラスを傾けながらチャーリー・パーカーの"ナウズ・ザ・タイム"を聴いていた。

もうすぐ、おしゃべり好きのマスターの、セッションとは言い難い邪魔が入ってくるはずだ。

「どうして今日は一人なんだい?」
ほらね、僕は質問に答えるのが面倒で、空っぽになったグラスをマスターのほうへ差し出した。マスターは何も言わず、さっきよりも少し多くメルローを満たしてくれた。

「ケンカだね?」
僕は何も答えずメルローを口に含む。 口当たりの良いまろやかな味わいが特徴のメルローが、今日は少し渋く感じる。

「私がいつも言ってるじゃないか、女性には、話をなるだけ聞いて、そのとき着ている服を褒めて、おいしいメルローを飲ませればいいって」
「ああ、もちろん。ただ彼女はメルローよりシャルドネが好きなんだ」

「そんなことは問題じゃない。どうやら問題は君のほうにありそうだね」
「そうだね。僕はチャーリー・パーカーほどアドリブがうまくないんだ」

ちょうどチャーリー・パーカーの伝説的なアドリブが店内に流れていた。

 

「どうだ、私と賭けをしないか?」
「賭け?」
「次に入ってくる客が男か女か?もし男だったら、君は彼女に謝るんだ、ここから電話をする、私の目の前で」
「もし女だったら?」
「君は今日、タダでメルローを好きなだけ飲んで、酔いつぶれることができるよ」
「なるほど、けどマスターへのリターンがないようだけど?」

マスターは、自分のグラスを持ってきて僕の入れたメルローのボトルを注ぐと、僕のグラスに合わせてこう言った。

「君たちが仲直りして、メルローとシャルドネが同時に減っていってくれた方が、私は助かるんでね」
なるほど、マスターはアドリブの利く男だ。時間だけが経過していく。

一時間ほど経っただろうか、男も女も入ってはこなかった、それどころか、それまでいた客たちもいなくなっていた、店には僕とマスターと空っぽになったカリフォルニア・メルローのボトルだけだった。

「どうやら、賭けは成立しなさそうだ、つまらない店ですまないね」
「いや、僕がつまらない男なんだよ」

支払いを済ませると、僕は席を立った、店を出ようとドアを開けると、そこには彼女が立っていた。

「まだ開いてるのかしら?」
「え?」
「開いてるなら入りたいんだけど、あなたがそこに立ってたら私は入れないわ」
「ああ、そうだね」

彼女はムッとした顔のまま、僕の側を横切って店の中へ入ろうとした。
「ちょっと待って」
僕は彼女を止めると、一旦店を出てドアを閉めた。

「ちょっと…」
「(さえぎるように)おいしいシャルドネが入ったらしい」

そういうと僕は彼女より先に店に入った、マスターとの賭けは、僕の負けになった。

店内にはまた"ナウズ・ザ・タイム"が流れていた、彼女に謝るのは"いまがそのとき"なんだとチャーリー・パーカーが教えてくれた。

おしまい
 



こちらヨーロッパ企画福岡支部(LOVE FM) 
京都を拠点に活動する劇団・ヨーロッパ企画による福岡発オリジナル番組。
【イシダカクテル】は、番組開始2013年の第1シーズンから続く大人の恋愛ラジオドラマ

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