音楽

独自の表現で毎日を綴った『苦汁100%』尾崎世界観インタビュー

2017年09月07日 12:00 by 筒井あや

今、日本のロックシーンを牽引するバンドのひとつとして、注目を集めているクリープハイプ。そのフロントマンであり、初小説『祐介』が話題をさらった作家・尾崎世界観が自意識過剰な日々を赤裸々に綴る『苦汁100%』。“毎日日記を書く”ことを自らに課し、その日常を、時に可笑しく、時に美しく詩的に書かれた本作は、まさに“苦汁”の日々だったようだ。

――この日記を書くきっかけはどういったことだったのでしょう?

毎日日記を書くということを、ずっとやってみたかったんです。日記といってもこちらでピックアップした日だけを掲載するのではなく、本当に毎日のことを書くというのをやりたかった。バンドでメジャーデビューしたばかりの頃に、そういう形で連載をしたいという話をしていたのですが、今のタイミング(デビューしたばかり)で、それをやっても興味をもってもらえるか難しい、ということでした。その数年後に、もともと大好きで読んでいた水道橋博士の「メルマ旬報」で書かせて頂けることになったんです。このメルマガは、書いている方も結構コアな方が多かったので、たとえ僕のことを知らなくても、面白がってもらえるんじゃないかと思いました。それに僕のことを知らない人に読んでもらえる方が、やりがいがあるんじゃないかとも思いました。だから、バンドのファンの人に向けて書いているのではなく、文章を読むのが好きな人に向けて書いていました。

――音楽に対する愛と、人に対する愛情がとても深い方だなと感じました。これを書くことで何か音楽に影響したことはありますか?

歌詞は文字ですけど、それって感覚に近いものなんです。今まで文章を書いていると思って歌詞を書いていたんですけど、小説を書いたり、こうやって毎日長めの文章を書いていく中で、歌詞は文章ではないなと改めて思いました。音楽はバンドの演奏や、メロディーラインというものにすごく動かされています。そこに言葉がパズルのようにはまっていく。自分の音楽についての考えを改めて文章にすることで、自分のやりたい音楽というものを整理して考えることもできました。逆にわからなくなることもありましたけど(笑)。

もちろん、文章で書くべきことではない瞬間もたくさんあるんです。ツアーをしていると同じことの繰り返しで、本番はもちろん変わりますけど、リハーサルまではほぼ変わらないルーティンなんです。僕は外にも出ないので、前日に遊びに行ったりするわけでないし、ずっとホテルにいて、時間が来たら会場に行って、リハーサルをして。楽屋の景色も大して変わるわけではないので。でもそういう淡々とした日々を書き続けるのは、大変でしたが、面白かったですね。ここまで音楽を、言葉に、文章にして噛み砕く、みたいな事をしている人は、あまりいないと思うんです。だから今でも意味のあることだと思っていますし、これからもっとちゃんと、その意味を音楽に還元したいなと思っています。

――毎日書き続けることで、尾崎さん自身になにか変化はありましたか?

日記を書くということを、自分の自慢みたいなことにしたくなかった。メールマガジンも書籍もそうですが、お金を払って読んでいただいているということは、常に意識をしていて、たまたまその題材が自分の日常だった。だから日々の記録というよりももっとシビアなもので、自分の何でもない日常を書いているんだけど、自分だったらこれにお金を払うか?と考えて書いています。人に食べさせるご飯を作っている感じですね。自分だったら鍋のまま食べたりするけど、人に食べてもらおうと思うとちゃんと盛りつけないといけない、というような文章の書き方はしています。

――とてもリズム良く読める文章だと感じましたが、そもそも文章を書くことに興味を持たれたのはいつ頃ですか?

昔から好きではありました。自分の音楽に文章を付けて補ったりとかもしていました。インディーズの頃に出したCDには四つ折りで紙を一枚入れて、かなりの長文で曲を全部解説したり。「一曲目のベースラインがしっかりと土台を支えて、その上を自由に泳ぎ回るギターフレーズ……」みたいな感じで、音楽雑誌に書いてあるようなことをいっぱい書いて、最後に、・・・というレビューをいつか書かれたい、と落としたり。

自分が作った音楽を責任を持って届けたり、守ったり、逆に攻撃したりする武器として文章は必要でした。歌詞だけでは伝えきれない。書いた歌詞に自信を持っているからこそ、ちゃんと伝えたい。そんな思いがあったからやっていたと思います。それを誰もやってくれかなったら伝わらないのと同じじゃないか、という意識が常にありましたから。だからそれを自分でやっていました。

――後半の注釈も、また別のエッセイのようで読んでいて面白かったです。

実はあそこを書いている時が体力的にも一番ヤバかったんですよ。人生で一番限界の時でした。バンドのツアーもあったし、曲作りもレコーディングもあって、この本の注釈も書きながら、その毎日の日記も書いていたし、あとふたつくらい原稿の締め切りも重なっていたんです。もうパニックでしたね。どう遅らせるかって(笑)。「ダ・ヴィンチ」で書いていた短編と千早茜さんとの共著の締め切りも超えていたので、その時は怒られました。「ホントにわかってますか?困る人がいっぱいいるんですよ」って。20歳過ぎて初めて大人に怒られました(笑)。

 

●尾崎世界観(おざき・せかいかん)
1984年、東京生まれ。2001年結成のロックバンド「クリープハイプ」のヴォーカル、ギター。多くの人から言われる「世界観が」という曖昧な評価に疑問を感じ、自ら尾崎世界観と名乗るようになる。12年、アルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャーデビューし、日本武道館公演を行うなど、シーンを牽引する存在に。男女それぞれの視点で描かれる日常と恋愛、押韻などの言葉遊び、そして比喩表現を用いた文学的な歌詞は、高く評価され、独自の輝きを放っている。16年に刊行された初小説『祐介』は、「アメトーーク!」で読書芸人大賞を受賞するなど、大きな話題となった。

 

「苦汁100%
尾崎世界観
定価:本体1,200円+税

取材・文:筒井あや
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