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【インタビュー】バリスタ世界大会で準優勝!岩瀬由和さん

2016年07月29日 18:00 by 木下 貴子

世界最高峰のバリスタの競技大会である「ワールド・バリスタ・チャンピオンシップ(WBC)」。各国のバリスタ・チャンピオンシップの優勝者(あるいは推薦者)たちによって世界タイトルが競われる大会で、エスプレッソ、ミルクビバレッジ、シグネチャービバレッジの3種のコーヒーを用意、給仕し審判によってポイントで判定され、予選ラウンド、セミファイナルラウンドを通過した上位6人がファイナル・ラウンドを競います。大会16回目の今年は6月にアイルランド・ダブリンでの開催で、61カ国のチャンピオンたちが出場。日本からは去年に続き2度目の代表となった福岡の『REC COFFEE』の岩瀬由和さんが出場し、見事、準優勝に輝きました!


WBC準優勝おめでとうございます!まずは、大会に挑戦した理由を教えてください。
日本大会には『REC COFFEE』を創業した8年前から出場してきましたが、優勝を目指すというよりもこの大会に魅力を感じたのがはじまりですね。コーヒーのことも勉強できるし、大会に取り組むなかで自身のモチベーションも上がります。また、コーヒーって何が正しくて何が間違っているかとか正解が出せないんですが、大会ではジャッジによって客観的かつ正当に順位が付けられたり、評価されたりするところも非常に大きかったですね。スタッフも一緒に取り組むなか社内全体のモチベーションや技術力アップにもつながるので、他のスタッフにも競技会を推奨しています。

評価のポイントは?その時の流行りなども評価対象になるんでしょうか?
なりません。結果的に流行り出すというのはありますが。例えば、WBCでよい結果をおさめた人が使っていた道具とか、方法論や哲学などがトレンドとなって、翌年以降、当たり前のように世界でも広まるというのはよくありますが。ですが、ジャッジは新しいアイデアや価値観をもってお客様に新しいコーヒーを提案することのできるバリスタを求めています。コーヒーを美味しくするためにバリスタがどんなことに悩んで、どんなことに取り組んで、どんなことを表現したいかということが明確に伝わり、さらにそれが味で体感できたらジャッジはきっと高い点数をつけるんじゃないでしょうか。

―毎年チャレンジするなか、今回はどう工夫されたのでしょう?
今年は、パナマとエチオピアのシングルオリジンコーヒーを2種類用意し、粉を挽いた後に混ぜあわせて抽出するというやり方を行いました。豆の段階でミックスするブレンドとはまったく異なる考えになり、僕はこのスタイルを「interweaving coffee」(interweave=織り混ぜる)と名付けました。何千回と実験を繰り返し、2種類の豆を完璧な配合と完璧な挽き目と完璧な抽出効率を計算して混ぜ合わせました。このスタイルは、新しいトレンドになりうるものになったんじゃないかなと思います。


↑準優勝トロフィー。現在は、博多マルイ店舗に飾られています。
 

―準備期間はどれくらい?
国内大会に優勝したのが昨年の9月で、それから産地を巡って豆をどうしようかというところから…約8カ月ですね。

―日本大会で出したコーヒーとは違うんですね。気が遠くなる準備ですね。
そのとおりです。国内大会とはシーズンが異なるから、同じ豆では旬を逃してしまいます。WBCのタイミングにあわせて、新しく収穫されて生産処理も終わった豆を空輸で日本に入れることを前提に考えました。様々な工程があるなかポイントがあるとするならば、今回使った豆においては、産地で豆を収穫するピッカーたちに、どういう豆を必要とするかをしっかりと伝え、また収穫方法も細かく指導するなどのトレーニングを行いました。焙煎は信頼するロースターと一緒にディスカッションしながら何百回も行いましたし、抽出においては当然自分のやるべき仕事としてベストを尽くしました。

―審査の中で、一番困難を感じたところは?
(使用言語である)英語はネイティブでないからハンデがある分、今まで以上に取り組みました。あとは味について、これ以上ないというところまで突き詰めました。毎回、妥協はしてないつもりですが結果的に妥協になっていることが多かったので、今回は徹底的に妥協をしないと決め、自分を貫きました。

―何千回も試されたなか、この味で行こうとピンと来ることがあるのでしょうか。
実は、味はある程度までしか絞れません。コーヒーの90%以上は水なので、水によって味が大きく左右します。同じ豆で同じように抽出しても水によってまったく違ってくるので、ほぼ現地で決めることになります。焙煎は日本でしていくので80%くらいまでの事前準備はできますが、残り20%は現地に行ってから、気候や温度、豆のコントロールやバックアップの豆も含めてどれを使うか、現地の水に対応するか、現地のマシンはどうかなど、現場判断になります。

―最終的な味の調整は、現地に入ってからですか?
アイルランドの3カ所の家庭用の水道水のサンプルを日本に取り寄せ、全部チェックして数値や癖を割り出したりしたうえで、それをベースに考えることもしました。ですが、水は会場側が準備するので当日まで本当に分からないんです。だから自分がどうにでも対応できるようにしにしておく。心の準備をするだけです。




↑「Please start my music!」。岩瀬さんのかけ声とともに、BGMが始まりファイナル・ラウンドがスタート。4人のジャッジを前に繰り広げられる、わずか15分間のプレゼンテーション。挑戦者・岩瀬さんの動きは優雅で軽やかで、英語でのスピーチも饒舌で、競技というよりもまるで舞台上のパフォーマンス。この様子は動画でも見る事ができます。http://livestream.com/worldcoffee/events/5677001/videos/127674797

 

―世界大会を終えての感想は?
優勝はめちゃめちゃ狙っていました。優勝できる環境で挑めたというのは大いにあるので、準優勝という結果は悔しいといえば悔しいのですが、でも正直いうと、とてもすがすがしい気持ちです。去年は7位でファイナルまで行けなかったんですが、今年はファイナルにも出れたし準優勝という結果もとても満足だし、やりきったなと。これ以上何をしたらよかったのか?というところまでやり遂げることができたので、結果には満足しています。一位が僕よりもやっていたというだけです。今回の準優勝はチームの力が9割と感じています。F1ドライバーと同じで、この大会もチームメンバーがいないと何一つできませんでした。それこそ生産者がいないと、ロースターがいないと、バックヤードの準備をしてくれるサポーターがいないと、僕は何もできません。僕はプレイヤーとして、みんながやってくれたことを15分の中に最大限のパフォーマンスをするだけです。準優勝という結果も一人の力だとはまったく思ってないし、思えないです。

―何か変化はありましたか。
競技会はこれで引退しようと思っているので、そういう意味では競技会に捧げていない夏というのは初めて。自分の中の変化でいえば、僕が経験してきたことをより多くの人にお伝えしていきたい…日本や世界のバリスタの業界に貢献していきたいし、いい起爆剤になりたいと。競技会とは違うフィールドで、次は自分がやってきたことをもっと大きくしてコーヒーのすばらしさを人に伝えていくような…自分の中の器がでかくなったような気がします。器がでかくなったというか、今回、世界でやっていくには器が大きくないと無理だぞと教えてもらいました。人間的なところも含めて。

―この経験を、店のスタイルに反映することはあるんでしょうか。
もともと世界レベルのことをやっているので、店としては何も変わりません。僕、海外出張が多くていろんな場所でコーヒーを飲みますが、客観的に見ても自分の店のコーヒーってすごくおいしいなと感じるんです。かなりレベルが高いなと。最近は世界の人がコーヒーを学びに来る店になりつつあるので、そういう責任をもつことと、逆にお客様にはこれからも変わらずに、しっかりとより感動できるものをお出ししていくように努める。岩瀬がどうこうではなく、競技の世界で認めてもらえたことは会社として店としてみんなで共有して魂をもってやっていきます。あと、天神の出店も狙っています!さらに福岡のコーヒー文化を盛り上げたいですね。




↑『REC COFFEE』は現在、薬院駅前店、東区馬出店、博多マルイ店の3店舗。ひと段落終えた岩瀬さんも、「僕も店頭に、時々立ちたいと思っています」と話します。


実にすがすがしい表情でインタビューに応じてくれた岩瀬さん。「いいお顔していますね」とういう感想に「ストレスフリーですから」と嬉しそうな笑顔。「でも、恩返しにとスタッフのトレーニングにつきあってて、寝不足なんです」。いまの岩瀬さんの気持ちは必ずスタッフに伝わり、そして最終的にお客へとつながっていく。今日もまた、『REC COFFEE』のドリンクが私たちの心に温かく届きます。


【プロフィール】
岩瀬由和(いわせ・よしかず)
昭和56(1981)年愛知県岡崎市生まれ。レックコレクティブ株式会社代表取締役。
「manu coffee」勤務を経て、平成20(2008)年に共同経営者北添修氏と「REC COFFEE」を移動販売で創業。以後、国内外の競技会へ出場し、入賞を重ねる。
平成26(2014)年より、2年連続でJBC(ジャパン バリスタ チャンピオンシップ)優勝し、日本代表としてWBC(ワールド バリスタ チャンピオンシップ)に出場する。WBC2015アメリカシアトル大会7位、WBC2016アイルランドダブリン大会準優勝。
競技者として活躍しながら、大会の審査員、セミナー開催など、社内外問わず後進の育成に力を入れており、バリスタ業界への貢献度が高く評価されている。
「REC COFFEE」としては、薬院駅前、県庁東店のほか博多マルイ店を4月に新店舗をオープンさせた。

取材・文:木下 貴子
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